匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(うつ伏せに倒れた身を起こすべく、砂浜に剣を突き立てながら、獣じみた呼吸を荒々しく繰り返す。貫かれたのは右肩、三本の完全貫通した魔法創から激しい勢いで血が噴き出ていた。これが普通の傷だったなら、歴戦の戦士たるもの、まったく歯牙にもかけなかっただろう。しかしこの傷はそうもいかない。どうやらレイケルが足止めを目論んだらしく、紫電に纏わりついていた濃密な闇の魔素が、傷口からじかに生命力を蝕んでいくのだ。心臓が脈打つたび、じわりじわりと視界が赤黒く染まり、目が血走り、ただでさえない魔力が抜け落ち、全身を強烈な悪寒が襲う。普通の肉体の痛みには慣れきっていても、肉体を超越した部分に直接干渉する魔法攻撃にはまるでなす術がない。まずい、中和を、だがそれよりも周りで何か異状が、早く動かなければ、敵を倒さなければ、彼女らを守らなければ──どっと脂汗を浮かべながら必死に立ち上がろうとした、そのとき。ふわり、と何者かに抱きしめられたかと思うと、思いがけない温かな光に覆われ、ただ優しく満たされた。視界を染める眩しい白、一瞬だけ訪れたあり得ないはずの穏やかな静寂。目を見開き、それでも本能的にその祝福を、全身で貪るように取り込む。すると、熱く重くこわばっていた身体がほどけるように楽になり、表情からも死相がゆるやかにかき消えて。癒しの光が解けたころ、自分をかき抱く相手の顔をようやく確かめる。ありったけの治癒魔法を発動してくれていたのは、死の淵に降臨するという花の女神ではなかった。この数日ずっとともに過ごしてきた相手、「帰ってきて」と伝えてくれたあの彼女。ヒーラー娘、ヴィヴィアンの、月光に淡く浮かび上がる白い顔を、深い緑色の双眸を、ほんの数秒ただ見つめて──)
……ファーヴニルが追ってくる。船を出すぞ!
(──礼を言おうとしたその口から、代わりに鋭い声が飛び出す。ギデオンの目つきも表情も、既にはっきりしたそれらへと切り替わり、戦士としての冷静な判断力が一気に巻き戻っていた。想像以上に大きく醜く膨れ上がっていた大蛇のことは、単独撃破は難しいと判断し、あのまま森に置いてきている。だが今宵の奴はまだ、生者から魂を啜っていない。あの有様なら、おそらく人の気配が集まっているこの浜辺に錯乱しながらも突っ込んでくる、そう確信しての警告で。相手の治療魔法のおかげで活力を取り戻した全身を翻すようにして立ち上がり、相手を庇って剣を構えながら、周囲を油断なく一瞥する。自分が傷に囚われ、そして相手に救われた間に、辺りはさらにおぞましい事態へと変化していた。浜辺に乗り出した幻の幽霊船、エウボイア号の登場には、流石に愕然と見上げてしまい。資料館で確認したそれからあまりにも変わり果てた、禍々しい船体の割れ目から、どろどろと溶けかかった巨大なタコ足のようなものが幾筋も伸びだしている。メインマストの切っ先に串刺しになっていた死体を見て「クリス!」とだれかが叫んだそこに、エウボイア号の触手が食らいつくように伸び、男をぐるりと巻き取った。悲鳴、やけくその詠唱、骨の砕ける音、絶叫、握り潰される音、そして敢え無き断末魔。トリアイナの連中が狂ったように叫びながら魔法や剣戟を叩きこむが、それに反応してまた第二第三の触手が伸びては、連中を船の中へと引きずり込み、鋭いフジツボの覆う甲板にやするように擦りつけ、あるいは船体のフォアマストやミズンマストにこれ見よがしに突き刺して。汚れた帆に大量の血が華々しく散り、月光に煌めく海を背に、ある種の異様な美しさを放っていた。──予想だにしない、ファーヴニルなど霞むようなおぞましい怪物の登場だが、この機を逃がすわけにはいかない。ヴィヴィアンヴィを伴い、浜に打ち上げられた小舟のもとへ駆けつける。すっかり腰を抜かした総舵手に喝を入れ、ライターに助けた子どもを任せ、記録係に船の移動を手伝わせ、そうして脱出の手筈を進めていくが。「逃がすか──逃がすものか!」地の底に住まう怨霊じみた声に振り返れば、血だらけのレイケルがこちらに猛然と突き進んできた。その後ろには、何故かレイケルと同士討ちしていたらしい、鬼のような顔つきのジェフリー・カーン。そのあとを追うようにエウボイア号から触手が迫り、さらには森の方から、傷つき飢えたファーヴニルの這いずり回る音が地響きのように近づいてくる。後ろで上がる記者たちの悲鳴、まさに絶体絶命といえる事態だ。……しかし、先ほどのあの光は、癒し以外に闘気までもたらしたのだろうか。迫りくる事態を前に、不思議と落ち着き払ったまま、隣の彼女と目を合わせる。それは島に入る時と違い、この身を捨ててでも、という思いから発した言葉ではなかった。彼女となら。前に出て戦う己に、彼女の助けがあるのなら。自分も一緒に、生きてこの場を切り抜けられるはずだと、そう確信しきった声で、若いヒーラーに問いかけて。)
──ヴィヴィアン。シルクタウンの作戦で使った閃光弾を何発か打つだけの魔力は、まだ残っているな?
(/謝罪は全くご不要です、むしろ満を持して登場したエウボイア号の描写から背後様の筆がノリノリなのを感じとって大歓喜しておりました……!こちらもついつい楽しみまくって大きく進めてしまいましたが、瀕死状態のギデオンをもっと見たい!などありましたら、戦闘中でも無事離脱後でもまたその流れを持ち込みますので、お気兼ねなくお申し付けください。
※第三者が多数絡む事件が進行中である以上、展開をついつい強引に進めてしまっておりますが、この山場を越えた後は、もう少し(作中基準で)リアルタイムな感触のロルに戻せるようにしようとも考えております。今現在偏重している駆け足気味のロル構成について、もうしばらくの間だけ目をつぶっていただけますと幸いです……!
また、お気遣いいただいたにもかかわらず背後返信を続けてしまい恐縮ですが、上記の興奮や提案をお伝えしたかったという理由のほかに、一点ご相談が。主様の手により、「昔はいい男だったぶん、今は頭部の劣化を密かに気にしている」というキャラ付けがなされた時から、ジェフリーのことが実はひっそかに気に入ってしまいまして……。諸悪の根源レイケルはここで滅びるのが妥当だと考えているのですが、ジェフリーについては(今であれ、後で判明するのであれ)一旦生存、とさせていただくことは可能でしょうか……?
グランポートの失踪事件共謀者であり、トリアイナの旧メンバーを追い払ったうえ何なら沈めた可能性もある、これ以上れっきとした悪人ですから、のちのち悪事の報いを受けて哀れな最期を遂げるのももちろん大アリだと考えています。しかしいかんせん、この場限りにしてしまうのはなんだか惜しい、もうちょっとだけジェフリーを見てみたいというしょうもないファン心が……! キャラの扱いをどうするか、という単純な話ではありますが、主様ご考案のキャラクターであること、また主様・当方のどちらもが大事なものとして捉える「倫理」に抵触する人物であることから、事前に確認させていただきました。主様の考えをお聞かせいただければ幸いです……!)
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