匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……今まで、何かしらで親父さんに怒られたことは?
(ひっく、ひっくと、顔を突っ伏したまま震えている華奢な肩に、大きな掌をそっと添える。そうして軽く撫でさすりつつ、真横から穏やかに尋ね。相手が否と答えれば、「そうか……」と仕方なさそうに微笑む。そうして、静かに正面を向き、敢えて視線を外したまま。震える身体をこちらに傾がせ、もたれかからせて、またよしよしと慰めはじめることだろう。
なるほど、自分は思い違いをしていたようだ。パチオ家の親子関係は、てっきり過去の何かしらが原因で冷えているのかと想像していた。だが実態はどうだ。今ここにいるヴィヴィアンの様子はどうだ。──こんなに幼気に泣き咽ぶくらい、父親のことが好きで好きで仕方ないのだ。だからあのような、高圧的な振る舞いに、混乱してしまったのだろう。だから反射的に、跳ね返そうとしてしまったのだろう。それでも本音ではギルバートを慕っているから、こうして不安や罪悪感に押し潰されそうになっているのだ。そのような洞察を得れば、相手のあまりのいじらしさに、愛しさの滲んだ笑みを浮かべ。何なら、ギルバートに少し妬けてもしまうのだが。それよりまずは、彼女の不安を取り払ってやらなければ、と。肩に回していた掌を下に滑らせ、彼女の太ももをぽんぽんと軽く叩きながら、自分の声を落とし込んで。)
怒るのは、嫌いだからじゃない。寧ろおまえのことが、今でも大事で大事で仕方ないからだよ。
考えてもみろ……可愛い可愛い娘が、ある日突然、どこぞの馬の骨にこうして囲い込まれてるんだ。親父さんにしてみたら、きっと青天の霹靂だったんだろう。だから躍起になって取り返そうとして……ちょっとやり過ぎた、それだけのことなんだよ。
なあ、賭けてもいい。今ごろは親父さんもきっと、おまえに強く言い過ぎたって、おまえそっくりに落ち込んでるはずだ。……そう思うと、な? 仲良しの親子だろ。
(おどけたような声音、からかうような声音。それらを駆使して軽い調子を作りながらも、あくまで本質は真剣に、ふたりの有り様をそう説明し。可哀想に丸まった背中をゆったりと撫で擦り、時には顔を寄せて伏せた頭にキスを落としては、相手が落ち着くのを待って。)
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