匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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っ……ちゃ、んと、温まってきてください、
( おもむろに落とされた唇と、耳元へ吹き込まれた低い声に、ぴくりと背筋が微かに震え、相手を諌める声が切なく詰まる。浴室へと向かうギデオンの背後で、薄手のネグリジェの胸元の合わせをかき寄せ、ゆるゆるとソファへと沈み込めば。火照った体に冷たいカクテルが心地よく、入浴後の乾ききった空きっ腹に、いつもよりずっと酒精がよくまわる。シャワーを浴びてる時からずっと──馬鹿なことを考えている自覚はある。行為だけ真似たところで大人になれるわけでも、問題が解決するわけでもない。それでも……名実共に貴方のものにして、手遅れにして欲しいのだと頼んだら、優しい恋人は応えてくれるだろうか。──なんて、今までずっと怯えて先延ばしにしてきたのは自分だろうに、いざ疑われれば証が欲しいだなんて、あまりに自分勝手がすぎるだろう。投げやりな思考はしまい込み、ギデオンが出てくるまでにいつも通りに戻らなければ。そう立ち上がった瞬間、ネグリジェの下で肌に滑る頼りない違和感は、ビビが下宿を出る際に、隣の女優志望から貰ったそれが原因だ。成程、装飾性に全振りしたそれは、補正機能という意味での実用性には劣るに違いない。肝心な部分の締め付けは足らずに、その代わり華奢な装飾があちこち触れて擽ったいそれを、馬鹿なことを考えた報いに違いだと力なく笑って。そうだ、なにかつまめるものでも──と、あっさり思考を切り替えてしまったものだから、その問題の下着の存在感は、うっかり本当に思考の彼方へと葬り去られてしまったのだった。
八百屋の主人からもらった真っ赤でつるりとしたトマト。何やら珍しい品種なのだと、自慢げな彼にオマケで貰って持て余していたそれに、取っておきのブッラータを添えて、透き通ったオリーブオイルに、胡椒を少々。それから、トマトの代わりに桃を割って、塩気のある生ハムを加えたもうひと皿を準備し始めたところで、背後から浴室の扉が開く音がして。中から出てきたらしい恋人を振り返らずに、僅かに上がった温度で確認すると、早く準備を終えてしまおうと、床下収納を探るべく前屈みとなって。 )
あっおかえりなさい、もうすぐなのでちょっと待っててくださいね………
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