匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(後輩ヒーラーを褒められるなり、ぱあっと輝くヴィヴィアンの顔、そのにこにことご機嫌なこと。ギデオンも思わず苦笑し、立ち上がって促されるままゆったりと歩き出す。その横顔は、気づけば随分と──少し前の一幕が嘘のように──寛いでいるのだった。
そうして道すがら、相手の真面目な報告に耳を傾けているうちに。冬の肌寒さが酒精を和らげてくれたのか、「そうか」「それで?」と相槌を打つ様子は、いつもの冷静沈着なギデオンにすっかり戻り切ったと言える。……しかし同時に、少しばかり、(……?)と首を捻っていた。素面に戻ったことで、何か違和感のようなものがぼんやりと沸いている──さっきまで、何か……とんでもないことをしていたような。歩きながら視線をさ迷わせ、眉をうっすら顰めては、記憶の糸を手繰り寄せようと試みるものの。適当な言い訳をつけて、酔い醒ましに宴を抜け出した、そこまでは覚えているのに……その後、おそらくこの小一時間ほどについては、靄がかかったようにほとんど思い出せずにいる。まあ、いつからか一緒にいた相棒の様子を見るに、別段いつも通りに振る舞えていたのだろう。そう安易に結論付けると、暫し黙っていたことを、「悪い、何でもない」と手を振って軽く詫び。辿り着いた民家の前、相手に向き直った時には再び、いつものベテラン戦士然とした面持ちになっていて。)
ああ、こちらこそ宜しく頼む。
ただ……実のところ、俺はもう少しここに居残ろうかと思っててな。さっきの爪痕の話、おそらく冬ごもりに失敗した大型魔獣の類いだろう。そういう個体は気が立ってるから、初動が遅れると厄介だ。
……いや、おまえや他の奴らはいい、ヨルゴスと一緒にまっすぐギルドに帰ってくれ。必要以上に動かすと、それはそれで上に怒られることになるんだ。
俺と斡旋官での調査がある程度纏まったら、そこで初めてクエスト化して、もうひと狩り片付けることになるだろうな。……そうだな、ああ、二、三日は見込む。だから、悪いんだが──
(そうして懐から取り出したのは、錫のリングに連なった鍵束。そのうちひとつは、相手も見覚えがあるだろう、己の自宅の鍵なのだが。どうやら今回は、ギルドの私書箱、ラドニア銀行の貸金庫など、他の諸々の鍵も一緒に預けてしまうつもりらしい──相手のことを信用しているから、大雑把でいいと踏んでいるのだ。ちゃり、と軽く鳴らしたそれを相手の掌の上に渡すと、澄んだ青い瞳で見つめ、ごく緩く首を傾げる。……どうやら、記憶は綺麗に飛んでいようと、素直に頼る考えもきちんと残っているらしい。)
手の空いたときに、また家の様子を見てくれると助かる。掃除や食事はいい……いや、掃除に関しては、妖精どもを寄せ付けない程度にしてくれたら正直助かるが。とにかく、この前ほど頑張らなくていい、感謝はしてるがもう充分だ。
二週連続頼むわけだから、報酬は弾む。そうだな、お前のよく使う薬草粉を、向こうひと月分……とかで足りるか?
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