匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(向こうの方の楽し気な賑わいとは反対に、辺りに降りるしばしの沈黙。ついで、相手の手が静かに引かれていくものだから、どこへとなく落としていたギデオンの視線は、ぴたりと強張るように固まった。──しかし次いで、何やら魔法の煌めく気配に、植物らしきものがざわざわと茂る音。……ヴィヴィアンはいったい何を、そう内心戸惑い、気になるものの、どこか意固地さを孕んだままの視線は、まだ一点に落とされたまま。相手が質問に答えずに、そっと強請ってきた声にも、やはり素直に応えられない。己の有り様を見透かされているのが、薄々わかってしまうからだ──どんな面をして見ればいい。
そんな聞き分けの悪い子どもを、ゆったりとあやすように。ヴィヴィアンはその温かい体を寄せてきて、こちらの頬にそっと口づけを落とした。そこまでされてようやく、大いに狼狽する双眸を、相棒のそれに合わせてみれば。今やギデオンの膝の間で向き合っている彼女は、こちらを覗き込みながら、ただまっすぐな誠意の言葉を。果ては、こちらの頭を柔く擽りながら、何度も頬や額にキスを落として、愛の告白を繰り返す。──不自然に閉ざされていたギデオンの胸中が、余計な力の抜け落ちるように、急速にほどけていく。どこか暗く、刺々しく翳っていた顔つきにも、穏やかな弛みがゆっくりと取り戻されて。その目にも、どこか心地よい敗北感が、温かく蕩け込んでくる。)
…………。
(極めつけは、お馴染みのポニーテールを解いた瞬間、密かに馴染みある香りがふわりと押し寄せてきたことだった。密かに好んでいた“彼女の匂い”が、鼻腔から肺の中まで潜り込んできた途端。そのあまりに単純明快な、真正面からの物理的な征服に、元々疲労と酒で弱っていたギデオンの牙城は、いとも呆気なく陥落し。……無言を保ったまま、ずり落ちていた毛布を片手で拾うと。もう片方の手で彼女の背を軽く押し、自分の胸の内に抱き込んで。そうして、彼女と自分の両方をすっぽりと覆うように、薄い毛布を掛け直す。腕の中のヴィヴィアンには、今の己の顔は見せない──これ以上見せてやらない。思考は未だ薄ぼんやりとしているものの、道理の通らぬ嫉妬に気づかれてしまったことを、酷く恥ずかしく思う気持ちはあるのだ。故に、締め付けのない艶やかな栗毛を、大きな掌でゆったりと撫でてやりながら、上辺ばかりの言い訳を諦め悪く繰り返す。──先ほど、彼女が酒の席から逃げてきたことを、ギデオン自ら言及していたし。そもそも彼女が、酒精で記憶を飛ばすことはないたちであることも知っている。彼女の好意を承知している身で、この“ご褒美”をなかったことにしてくれだなんて、酷く身勝手で薄情極まりない言い草だということも、痛いほど自覚している。だが、こうして建前を並べ立てるのでもなければ……己の方が、素直に彼女に甘えられない。)
……明日には、忘れろ。
俺もお前も、今こんな風にしてるのは……酔いが……回っているせいだ。
いつもみたいに撫でるのは、またしてやるから。
だから、今夜のこれは……特別だ。
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