匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──なあ、あいつとは、
(ギデオンはその瞬間まで、ふわふわと心地よかったのだ。ヴィヴィアンのらしくない、どこかしおらしく感じられる様子を、最初は「……?」と、訳も知らずのうのうと、不思議に思いはしていたものの。こちらにしっとりともたれかかっている彼女が、徐にギデオンの手を弄び始めたのを見て──ああ、いつもの相棒だ。これがいい、俺はこれがいい、と、何ら抗わず身を委ねていた。強い魔獣を仲間たちと屠り、喜びに沸く市民と熱い食事を一緒に囲み、酒を飲んで、皆が愉しそうに騒いで。それをのんびり眺めながら、相棒とふたり、なんてことのないささやかな時間を楽しむ……今の己に、これ以上恵まれた人生などあるだろうか。そんな満ち足りた心境だったから、“こちらは応えないが、相手を拒むこともしない”という、いつぞやの花火の夜の約束よろしく。理性の利いている普段なら身を引くだろう触れ合いを、与えられるまま堪能していた──その矢先に、急に心が冷えたのだ。
カーティス・パーカー。あの爽やかな、男から見ても魅力的な後輩戦士の名を、よりによってヴィヴィアンの口から親し気に聞かされた途端。とろりと凪いでいたギデオンの双眸は、すうっと不穏に焦点を取り戻し。目の前の焚火を見遣りながら、思わず反射的に口走ったのは、相手を促すどころか、あからさまに遮っての問いかけ。これも普段ならば決してしない真似だろうに、酔いと動揺で頭の鈍っている今は、その浅慮を全く自覚していないらしい。大して考えていなかったのだろう、続きの言葉を捻りだすのに、一瞬「……」と沈黙を挟んでから。触れられた手を振りほどくことはできぬまま、それでも顔だけは、ふいと僅かに他方にそらし。少し低く落とした、どこか親しみの失せた声で、言い訳じみた言葉まで重ね。)
あいつとは、仲がいいのか。
……テントでの様子を見て気になっただけだ。個人間の繋がりは、隊の編制をする側としては、掴んでおきたいところだろう。……
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