匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
( ギデオンの苦悩と、外の喧騒など露知らず。急拵えの簡易ベッドにカーティスを寝かせてやれば、「──……待て、待ってくれ。渓谷の、俺が……滑り落ちた途中の、木の幹に。デカい爪痕があったんだ……。ありゃトレントじゃねえ、ノースさんに……」と成程。この青年は自らが見た責任を果たすべく、満身創痍の身体を引きずり出てきたというわけか。しかし、この作戦で彼の言う爪痕の主が現れなかった以上、それはビビ達がギルドに帰った後、然るべき装備の調査隊が入るべき案件だ。今はただ「……わかった。ギデオンさんには私から伝えておくから安心して」と、宥めるようにその額の汗を拭ってやれば──その責任感だけで意識を保っていたのだろう。少しだけ安心した表情で、気丈な後輩が瞳を閉ざし、その呼吸が深くなるのを確認すれば、そっとその場を離れるのだった。
そうして、計画通りアリアと各々1人ずつ、ギデオンが割り振ってくれた罠師を連れて。人手不足故の慌ただしさはありつつも、少ない資源を効率的に、かつ速やかに痛みに喘ぐ怪我人達の治療を済ませていけば。痛々しい呻きで揺れていたテントに、次第に穏やかな寝息が響き始める。しかし、もしその過程を俯瞰的に眺めることが出来たならば、アリアが担当した5人側と、ビビが担当した4人側で、そのヒーラー達を取り巻く空気が、全く違う色を放っていたことに気がつけただろう。そもそも冒険者という輩は、この仕事に着くまで軽い病気にもかかった事がないような連中が殆ど、そのうえ見栄っ張りで強がりという救えない性格を持ってすれば。まずその治療必須の大怪我を、可能な限り隠し通そうとして、それが出来ないとなると、今度はこんな怪我たいしたことないと、なんとしても治療から逃げ回ろうと足掻く始末。そんな傍迷惑な野郎共をどうするかと云うのは、ヒーラーによって大きく変わるところで。魔獣討伐も終わったというのに、魔獣より元気な怪我人共とプロレスを繰り返し、最終的には魔力に任せて、連中を昏睡紛いの眠りに突き落とすビビに対して、アリアサイドの穏やかなこと。人一倍大きな成りをして、注射や見た事のない医療道具に震え上がる冒険者達を宥めつつ、一生懸命丁寧に手当をしては、「ね、痛くなかったでしょ?」と、普段おどおどと気弱に見える娘が、自分のために微笑んでくれる姿に、一度アリアの手当を受けた連中は、次回からも素直に治療に応じるようになるとの評判さえある程だ。しかもアリアが凄いのは、それを──雑務処理や、他に軽傷の連中の手当も引き受けていたとはいえ──4人しか診ていないビビと、大して変わらない速度でこなしていく出際の良さで。そうして、優秀な後輩のお陰で、負傷者の治療は速やかに進み。一方の解体作業の方はと言えば、なにやら此方もとてもスムーズに片付いたらしいというのに。約数名、最後のキヨメに呼ばれたビビを見て、サッと顔色を変え、キョロキョロと不審に周囲を見渡していたのは何事だったのだろうか。 )
( ──あら、珍しい。暖かく揺れる焚き火を頬に写して、睫毛の長い瞼を閉ざした相棒を見つけたのは、予定外の宴も大いに盛り上がって来た、まだそう遅くない時刻のこと。お茶目な村長の隣について、今後の対策やら、村の来歴やら、ご主人との馴れ初めやら、どんどん逸れていく話に花を咲かせることしばらく。赤ワインの瓶が開けられた気配に、そっとさり気なく席を外して、自分でも無意識に探していたのは愛しい相棒の姿。懸命に探すまでもなく、相手の好みそうな場所を探せば、すぐ様見つかったギデオンはしかし、その大好きな青い瞳をビビに向けてはくれずに。──この数日、ヨルゴスと2人、大所帯を抱えて、ついに凶暴な魔獣を討伐したのだ。疲れきって、今は気が緩むのも当然の相手の姿に。いくら焚き火の隣といえど、この寒空に無防備な様が気にかかって。一度冒険者達の荷物が纏めて置いてある方へと歩みを変えると、旅慣れした荷物の中から薄い毛布を取り出し、ゆらゆらと揺れる焚き火で温める。そうして、宴の喧騒も遠く、信頼する相棒と2人、パチパチと爆ぜる火の音に、自身もまったりと降りてくる瞼を感じ取りながら、ふわりと大きな欠伸をひとつして。──いつかの夜のように。座る相手のピッタリ隣に腰掛けながら、相手の逞しい膝に暖かい毛布をかけてやれば、"お疲れ様です"と、口の中で囁くように労って、その頬が冷えていないか、酒精と眠気でやけに温まった、人差し指から小指までの指の甲でそっと触れて。 )
トピック検索 |