Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.605 by ギデオン・ノース  2023-10-02 17:24:37 




(一発目に弾けたのは、伝達開始を知らせる高らかな破裂音。それが己には何故か、『──ギデオンさん!』と呼ぶ声に聞こえ、反射的に振り仰いだ。地上の血生臭さなどつゆ知らぬ、爽やかな冬の青空。そこによく映える、真っ白な信号花火が、パン、パパパン、と明瞭に鳴る──“ら・っ・か・ちゅ・う・い”!
急ぎながらも正しいリズムで打ち上げてくれたおかげで、向こうで異状が起きたことを把握しつつ、そちらで対応が取れていることまで察せたから、こちらのためだけの最速判断を下すのに躊躇はなかった。「総員!」──若手のひとりに襲い掛かった親トロイト、その足元を魔剣のひと薙ぎで打ち払って牽制してから、谷全体を振り返り──「各自、南北へ退避!」。無論、中堅以上の戦士ならば、ギデオンがこうしてわざわざ再共有するまでもない。しかし、今戦っている多くの若者は、強い魔獣と対峙しながら想定外の信号にまで気を配る余裕など、まだまだ身につけていないに等しい。故に、相棒のくれた情報を確実に行き渡らせるのは、信じて託された己の使命だ。
はたして、谷の随所で激戦を繰り広げていた冒険者たちも。辺りを駆けるギデオンが、差し迫った表情で「退避!」「南北へ散れ!」と呼びかけ続けたものだから。はっと冷静に動きを止め、敵を依然注視しながらも、谷の両端に散開した。
そのタイミングを、完璧に読んだのだろうか。ひとりの若手戦士、ヒーラーの護衛に回っていた筈のカーティスが、必死に体勢を立て直しながら滑り落ちてきた、その頭上。崖の外れでものすごい爆発が轟いたかと思うと、派手な土煙と共にひとつの巨体が吹っ飛んでくる。それを決して逃さずに、「最高だ!!」と叫んだのは、傍で構え続けていた熟練魔槌使いヨルゴス。韋駄天のように駆けたかと思うと、別の戦士に突っ込もうと蹄を打ち鳴らしていた敵の一頭──最も頑丈で手を焼く子トロイト──のこめかみに、強力な打撃を撃ち込んで。谷の後方へ勢いよく吹っ飛ばされる巨体、その着地地点はもちろん、崖から飛んできた兄弟が落ちていくまさにその場所。どしゃっと潰れる嫌な音が響き、辺りの地面にむごたらしい赤がぶちまけられる。
しかしギデオンの目は、それを一瞬確認しただけで、すぐに上空へと吸い寄せられた。煙が次第に薄れると、その高い崖の一点に、ひとりのヒーラー娘の姿がはっきり見えてきたからだ。純白のローブと栗毛の髪をはためかせ、ぐっと険しくも凛々しい目で、こちらを見下ろすヴィヴィアン・パチオ。その雄姿はギデオンだけでなく、谷底にいる戦士皆の目に、強烈に焼き付いた。
──しかし、まだ戦いは終わっていない。コンマ数秒の静寂から真っ先に我を取り戻すと、彼女やヨルゴスを労う間も惜しみ、周囲に、そして崖上のヴィヴィアンに、毅然とした声で指示を飛ばし。相棒もまた、最速の動きをもって、最後の追い込みを調えてくれる──作戦どおり、谷に煙幕が充満する。いよいよ、この作戦の総仕上げだ。)

第二! 左翼展開、威嚇用意!
第三! 目標10時、右左方用意!

(ヴィヴィアンとアリアが作ってくれた燻し玉の煙幕は、嗅覚を奪うのみで、呼吸や視界には支障をきたさぬ優れもの。しかし、視力の悪いトロイトにとっては、最悪極まりない妨害工作だ。血塗れの子トロイト二頭を従え、自身も平らな鼻面から夥しい量の血を噴きだしている親トロイトは、ぶっぶっと息を吐きながら、忌々し気に頭を揺らめかせ、こちらに攻めあぐねている様子。左眼の瞼の上を深く斬っておいたので、そちら側の視界はもう、完全に塞がっていることだろう。加えて、討伐作戦の序盤で第三部隊が撃ち込んだ矢が、左半身を痛め続けているとなれば。奴は今、死角になっている左からの攻撃を、神経質に警戒しているはず。ギデオンはそこに勝機を見ていた──着実に、最小限の被害で奴を仕留めきるために、全ての手駒を活かすのみだ。)

第四、第二を助攻! 目標のサイドを排除しろ!
第一、主攻構え! ──攻撃、始め!!

(作戦通りの陣形を展開した冒険者たちは、三頭の魔猪たちに一斉に迫りかかった。ギデオンらが迂回混じりに距離を詰める隙を稼ぐべく、第二部隊が陽動を展開。その音に敏感に反応した親トロイトをいち早く庇おうと、子ども二頭がそちらに突っ込み──ギデオンの指示どおり、強力な魔法を己の弓にためていた少数精鋭の第四部隊が、先ほどとは比べ物にならないほど強力な矢を発射する。案の定、子トロイトはその頸椎を射抜かれ、あまりの勢いに首がくるくると飛んでいく。
頭部のない残りの身体が、崖に激しく叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちる──その無残な光景を、残る右目で見届けたのか。ごおおお、ともはや地響きじみた唸りを上げたのは、大ボスである親トロイトだ。もはや臭いでの索敵を投げ捨てたのか、冒険者たちを手当たり次第に蹴散らそうと、むやみやたらに暴れ狂いはじめた。ここにきて、その脅威度が更に数段階上がったのだ。
魔獣の死力は凄まじく、奴に接近していた何人かの若手が、いとも呆気なく撥ね飛ばされた。しかし、第二部隊の魔法使いたち、もしくは崖上のヒーラーや魔法戦士が、すかさずカバーの魔法を投げかけてやったおかげで、崖に身体を打ち付けての致命傷には至らない。起き上がるなり自力で退避できたのは、ヴィヴィアンの巧みな煙幕操作のおかげで、トロイトがろくに追い討ちをかけられないためだろう。それでも元気のある者は、ほんの少し息を整えただけですぐに飛び出し、再び戦況に加勢していく。
一方、すべての攻撃を躱し続けるギデオンとヨルゴスは。魔獣に巧みに接近し、己の魔剣、己の魔槌を、その巨躯に幾度も叩き込んでいた。後援として潜んでいた罠師たちもまた、揺らめく煙幕に紛れるようにして、ほんの小さな足止め程度の罠を何発も新たに植え込み、トロイトの動線をさりげなく操作する。冒険者たちの連携は盤石だ──それでもトロイトは、道連れを増やすことを諦めない。
たった今、トロイトの巨大な牙の切っ先が鎧を掠め、ばりばりと金属が引き裂かれていく嫌な音が響き渡った。被害を受けたのは、最前線にいたギデオン及びヨルゴス。しかし咄嗟の回避力に年季が入っていることもあり、その傷はさほど深くない。一切怯みを見せることなく、トロイトの肩、及び後ろ脚をずたずたにして、同時に後方へ飛び退る。ここまでくれば、自分たち特攻隊の仕事はもう充分と言っていい。「総員、撤退!」と一声命じれば、他の冒険者たちが一斉に戦場を離れていく。
──それに応えるようにして、「第三、構えました!!」と爽やかな声で叫んだのは、安全地帯に引き上げられていた筈のカーティスだろうか。信頼のおける相手ゆえ、そちらを見もしなかったギデオンは、己の魔剣を正面に構え、バチバチと魔素をため込みはじめた。お得意の雷魔法──今日ずっと使わなかったのは、この最後の一撃のためだ。普段よりもその閃光が激しかったのは、激しい闘気によるものか、それとも崖上に控えている相棒に支援魔法をかけられてか。
いずれにせよ、煙幕を薙ぎ払うようにして射出された雷撃は、こちらを圧し潰そうと突進してきたトロイトの勢いを、中間地点で相殺しきり、その場で激しくもんどりうたせた。──そして、「総隊長の雷魔法」という合図を今か今かと待ちながら、その石弓に自分の魔力を込めきっていた、第三部隊の大勢が。第四部隊のそれよりさらに強力な、必殺の弓矢の雨を、ここぞとばかりに解き放つ。
痺れて動けぬトロイトは、死んだその子らと同様に、どすどすと貫かれはじめた。立ち上がろうにも、矢、矢、矢。ここまでくると、剣や槌といった近接武器を使う特攻部隊の面々は、その壮絶な死にざまをじっと見届けてやるしかない。何度も何度も立ち上がろうと藻掻き続ける大猪は、最後に一度、血の塊を吐き出しながらギデオンを睨みつけて。──その血走った右目が、ぐるんと上を向き。どうっと倒れて、谷を激しく震わせた。)

(──数秒の沈黙の後、荒い息を整えながら、「ヨルゴス」と隣に呼びかける。ベテラン仲間はそれだけで、隊の前では見せられないギデオンの魔法疲労を感じ取ったらしく、代わりに進み出てくれた。「──おまえら、まだ気ぃ抜くな! まだ敵は死んでないぞ!」。煙幕が薄れゆく中、よく響き渡る怒鳴り声は、迂闊な勝利に浮かれぬよう、仲間たちの気をしっかり引き締めるためのもので。
ヨルゴスが適当な者を呼び集めると、そのなかのひとり、若い槍使いが、強張った面もちで親トロイトの死体に近づいた。敵はほぼ確実に事切れただろうだが、念には念を入れろ、というのが冒険者の鉄則。この頃にはギデオンも静かに息を整えたので、後輩の傍まで歩いて行き、周囲の仲間と共に万一に備えながら、しっかりと立ち合いを担う。
ヨルゴスの指導の下、若い槍使いはトロイトの後頭部に槍の穂先を突き立てると、ずぶずぶと沈めていって──「あっ、これですか」「そうだ、そいつだ」。初めてでは穴を見つけるのは難しいだろうに、しっかりと手応えを得たらしい、額に脂汗を浮かせながら、その槍を激しく動かす。魔獣の頭蓋骨の中身を、念入りにかき混ぜているのだ。王都の市民がこれを見ると、酷くグロテスクな所業だと恐れをなすのだが、なまじ強い魔獣ともなると、ここまでしなければ死なないことも多い。これをぬかって返り討ちにされた事例も、冒険者史上数多く存在する。故に、トロイトのような特定魔獣を狩るときは、最後に必ずこの処理をする決まりなのだ。
そうしてようやく、「もういいぞ」とベテラン戦士双方に言われ、獲物をしっかり引き抜いた青年は。その赤い穂先を高く掲げ、興奮で頬を紅潮させながら、「──ブランドン・ベイツ、対象の死亡を確認しました!」と声高らかに宣言した。その瞬間、谷中がわっと湧き、むさ苦しい凱歌があちこちで立ち昇って、血だらけ土だらけの冒険者たちが、ごろごろと無邪気に抱き合う。何度経験していようと、大掛かりな討伐を果たした時の達成感というものは、冒険者皆が熱狂する、最高の瞬間だ。ギデオンもそれは決して例外でなく、崖の上の相棒をふと振り返ると、満足気な笑みをふっと浮かべるのだった。)



(──さて、現場にいる間だけは、泣く子も黙る鬼になるのがヨルゴスだ。
「静まれジャリども! ここからがこのクエストの本番だぞ!」と相変わらず怒鳴る彼に、縮み上がる若手たち。その様を面白おかしく眺めるのも一興だが、総隊長のギデオンには懸念事項が山ほどある。現場処理の指揮を一旦ヨルゴスに任せることにして、まずは作戦中異状があった後衛の確認へ。激戦明けのはずの身体で崖を軽快に駆け上り、がさがさと茂みを掻き分けること数歩。真っ先に顔を合わせた相棒に。開口一番、先ほどの偉業を褒めてやるよりも前に、まずは責任者としての真摯な確認を投げかけて。)

──……、負傷者は何人、どの程度だ。アリアは無事か?



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