匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……ギデオンさんが、妬いてもいいって言ったんじゃないですか。
( ビビの頭上で、大きな手がそろりと動く気配に、撫でやすいよう小さく俯き瞳を閉じて、温かな触れ合いをおっとりと待つ。しかし与えられた触れ合いのその浅さに、……?、? と寂しそうな、期待するような視線をギデオンにチラチラと向ければ。頑なな相手の言い草に──確かに相手もまさか、犬が仇になるなど思ってもいなかっただろうが──かの聖夜のやり取りを思い出して、そのエメラルドの瞳が傷ついたように微かに揺れる。そうして、柔らかい革の感触に頬擦りをしながら、健気にギデオンを見上げること暫く。一体ギデオンが何を躊躇っているのか、それこそ先程カヴァス犬にしたような、なんの色気もない健全な触れ合いを求めていたビビには、相手の意図が読めずに、「……ありがとうございます、」と小さく頭を下げながらも、その瞳にありありと──人前だから? と、視線だけで問うてくる姿は、彼女に分かりやすい大きな耳と尻尾があったのならば、しょんぼりと垂れていることが容易に想像出来る有様で。それでも、この半年以上袖にされ続けてきた、恋する乙女のタフさはベヒモスの皮革の如し。そろそろ作戦が始まる気配に、すぐさま垂れていた頭をぴこりと上げて、「ね、じゃあ今度……2人きりの時にご褒美くださいね」なんて、肩に置かれた手を挟むようにして、可愛らしく小首を傾げれば。それじゃあ、気をつけてくださいねえ──と、大きく手を振りながら持ち場に駆け出していって。 )
( さて、作戦決行間際。鼻の良いトロイト達に居場所を嗅ぎつかれぬよう、昨日ビビとアリアが作った特製匂い消しを振りまいて、それぞれの持ち場に潜むこと四半時──ねえ、どうしよう、仕事前に甘えすぎてギデオンさんに呆れられちゃったかも……。と、悶えている先輩を目の前にして、ぽかんと空いた口が塞がらないといった表情をしているアリアに、「帰ったら慰めてぇ、前行きたいって言ってたお店奢るから~」と、畳み掛けるビビがいる。確かに今回の作戦は大規模だが、まるで世紀の大仕事をするかのような深刻な顔をしている後輩に、あくまでこれは、なんでもない日常的な仕事と変わらないのだと。意識的にヘラヘラと緊張感のない様を演じている訳だが、これが意外と効果覿面。昨晩より少し顔色の良くなった後輩に、安堵する気持ちが一番大きいことには大きいのだが……。我ながら少しやりすぎかと思った演技を、すんなりと受け入れる後輩に──もしかして、ギデオンさん関係の時って、私いつもこんな感じに見えてる……? と一抹の不安を覚えたのはまた別の話だ。
さて、流石にピリピリしてきた戦士達の緊張感が必要以上にアリアに伝わらぬよう、ビビにしては厳かな態度でアリアに薬品の数と場所、使用用途を確認させる。──怖がっても出来ることは変わらない。けれど、驚異に対して正しい恐れを持つこともまた、冒険者には大切な事だ。そして、その恐怖を克服できるのは、念入りな事前準備だけだとビビは思っている。「やっぱりちょっと作りすぎたよね」なんて、作戦中に不足する心配はないのだと、できることは全てやったと、何度も何度も繰り返しアリアに刷り込みながら。世界一格好いい声で発されるだろう号令を、今か今かと待ち構えて。 )
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