匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( 冬の夜中の冷たい路面に、二人分の雪を踏む足音が静かに響く。ひとつは一歩一歩、ゆっくりと地面を踏み締める堅実なそれ。もうひとつはそれに比べて、どこか少し浮かれたような、どうしても疼く衝動を抑えきれないといったように弾む、不規則なそれ。──サク、サクサクッ、シャッと、時折もうひとつの足音を振り返りながら進むその音は、しかしギデオンの口から放たれた若いヒーラーへの評価にピタリと止まった。
忘れるはずもない、昨年の暮れ、ライヒェレンチの討伐作戦、その余波で里に降りてくるようになった魔獣の後片付けと。実に冒険者らしく、ビビの得意な"分かりやすい"依頼。その上、冒険者としても尊敬して止まない大先輩であるギデオンと一緒になんて、これ以上なく魅力的な仕事ではあるのだが──ビビが聞き逃せなかったのは、その尊敬する相棒の口から零れた、可愛い後輩のその名前で。──確かにアリアは内気だけれど、与えられた仕事はしっかりこなす娘だ。誰より真面目で繊細で、対峙する全ての者になんの圧も与えないあのたおやかさは、ビビが怪我人として弱っている時に、救護してくれるヒーラーを選べるなら、絶対に彼女が良いと胸を張って言える自慢の後輩だ。確かにビビにはヒーラーとして、その莫大な魔力という得難い才能への自負はあるものの。一人一人の病状を真剣に見つめ、そっと患部に手を添える、あの独特の寄り添われているという心強い実感。可能な限り素早くも、これ以上なく丁寧に治療されていると感じられる独特の空気は、ビビには無い彼女の強い武器だ。ヒーラーとして一番大事なことを忘れない彼女は、どこでだって、絶対に、活躍するだろう。それをあの一見した、弱気そうな雰囲気だけで侮られては堪らない、と。その生来の負けん気だけでギデオンに反論しようとして。しかし、その気の強そうなエメラルドグリーンが、相手の真意を探るようにじっと輝いたのは──ギデオンさんがそんな短絡的な判断を下すわけが無い、と。相手のこともまた心から信じているからで。
本人が短い期間でのし上がった、なまじ優秀でメンタルの強いヒーラー故に気づけない。これ迄は自分が育てられる立場で、偶に後輩の面倒を見ても、ごくごく限定的で具体的な作業についてだけ。ビビに欠けているのは、その場の仕事ぶりだけでは無い、その後のメンタルと成長性という俯瞰的な視点で。それを──ああ、こういう時に相手の意図が読み取れないのは、まだまだ自分が未熟な証だと、サクサクと規則正しい足音を再開しながらも。困ったように、悔しそうに、白い息を吐く口元をもにょもにょとさせると、新たに自分なら出来ると信頼され、求められている何かがあると勘づいて。本当は可愛い後輩の良いところを、これでもかと語ってやりたい熱を、キラキラと閉じ込めた瞳をじいっとギデオンに向け、 )
勿論、ですけど……。
アリアは、私が居なくてもきっと……絶対! 良い仕事をしますよ……?
うぅ……むん、その、私は何をすれば良いんでしょうか……
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