匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
(──ずっと後になってわかったことだが、この一種のアブノーマルプレイは、魔法適性が高い者ほど習得が早いらしい。ヴィヴィアンが小さな悦をすぐにも極められたのも、ギデオンの方はまだそこまでの快感に襲われなかったのも、つまるところそういうことだ。しかしながら、戸惑うギデオンが理性を取り戻していられたのは、結局はごく一瞬。不思議な快楽にふわふわ酩酊した恋人の、その表情、その仕草、その声音を向けられて、脳の奥が激しく焼け落ちない男などいるだろうか。元々、熱烈な睦み合いに溺れていた矢先なのだ……ギデオンの視線はわかりやすいほどに揺れ、その瞳孔が暗く広がり。我知らず喉が鳴り、言い様もなく体温が高まり、呼吸は浅く、早くなる。……今はまだ追いつけぬ身だというのに、それでも、ヴィヴィアン自身の媚態のせいで、彼女と同じくらいに興奮しているこのざまだ。それを己で宥めるべく、一度目を閉じ、静かに息を整えたのは。数日前の反省、同じ過ちを犯したりして彼女を怖がらせないため。──否、違う。本当のところは……この摩訶不思議で甘美な遊戯を、絶対にやめたくなかったからで。)
…………、
(もう一度、小さく唾を呑んでから。どこか眠たげにも見えるほど蕩けたまなざしを向け、ようやくのことで微笑み返すと。すぐにまた目を閉じながら、少し頭を屈めるようにして額を寄せ。ささやかな呼吸すら感じ取れるほどの距離で、静かに手と手を握り合う。今のギデオンは要するに、そうと知らずに──知ったところで同じだろうが──相手のお望み通りのまま、ただ目の前のヴィヴィアンに集中しきっている状態。掌に感覚を集め、己の魔力弁らしきものをどうにか制御下に置いてみせると、今度はそれを使い、彼女のものをもう一度探り当てようと試みる。……だが、やはり至難の業のようだ。怪我で動かなくなっていたあの時と違って、もうお互いの魔力弁がとっくに回復し、その流動性を取り戻しているせいだろう。何度かそれらしい感触が掠めたものの、上手く捕まえておけないようで。「こら、そんなに元気に逃げ回らないでくれ」なんて、相手もその気はないだろうに、笑んだ声で冗談を。そうして戯れ合いながら、それでもその手元だけは、あの時の陶然としたヴィヴィアンをもう一度呼び起こすべく、真剣に探し続けるのだ。その執念を厭らしく思われたとて、仕方がないことだろう。──結局それ自体が楽しくなって、飽きもせず長い間探り合っていた時のこと。不意にようやく巡り合った魔力弁が、もう一度上手く食み合う感触に。無言のまま見開いた目を、そっと相手と合わせると。その視線を艶っぽく伏せ、少し息を震わせながら、魔力を流し込みにかかる。──今度はギデオンも、ごく小さく声が出た。押し殺していたのに思わず漏れ出たような、無性音に近い声だったが。どろりと──溢れるように──己の魔力が直接恋人の中へ吐き出される感触に、今はまだ鈍い快感が、それでも鳩尾からじわじわと立ち上る。肉欲のそれと限りなく似ているが、あれとはまた違う──もっと深く、もっと熱く、もっと穏やかなそれのようだ。触れ合っている掌同士だけでなく、心臓が直接蕩けるような感触を覚えるのは、相手も同じことだろうか。「……ヴィヴィアン、」とわけもなく名を呼んだのは。己の味わう混乱交じりの快感を、自分にとって確かな存在を頼りに、まっすぐ受け止めたかったからで。)
トピック検索 |