Petunia 〆

Petunia 〆

匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
通報


募集板でお声がけくださった方をお待ちしております。



コメントを投稿する

  • No.566 by ギデオン・ノース  2023-09-09 17:03:13 




(エッヘ・ウーシュカという魔獣は、海の上ならば本来無敵だ。波間に沈まぬ不思議な蹄に、触れたが最後、決して離れられなくなってしまう恐怖の毛皮。魔法こそ使えずとも、一方的に近づいて絡めとった敵を海の底に引きずり込めば、あとは獲物が溺れ死ぬのを悠々と待ち詫びるだけ。暫くの後、赤黒く染まった海面に、ウーシュカの好まない犠牲者の肝臓だけがぷかりと浮かび上がってくる──本来そんな、悍ましい所業をしでかす怪物であるはずだ。
グランポートのウーシュカは、更にその上位種として生まれついた個体だった。ケルピーとの間の子たる彼は、普通のウーシュカには宿り得ない、水嵩を自由自在に操る力まで持っている。ただひとつ欠けているのは、有害魔獣には皆備わっているはずの、悪意に満ちた攻撃性だけ……いやまあ、あるにはあるのだけれども、人を取って喰おうという真に有害なそれではなく。せいぜいが、「色っぺえ姉ちゃんのいやんあはんを拝むぜぐへへ」程度の、実に低俗でくだらないそれなのだ。彼はとにかく美女に目がない。より言うならば、水着姿が大好物だ。故に、大胆な姿の彼女らが戯れに来てくれない寂しいビーチにはするまいと、他の魔獣を手あたり次第、勝手に蹴散らすほどである。ここらの魔獣を討伐しているトリアイナの連中も、彼がハイ・ウーシュカであると知りながら見逃してやっているのは、そういった事情によるもので。妙に人懐こい個体のようだし、まあ不埒な真似はいただけないけれども、放っておけばなんか勝手に働いてくれるからいいだろう、と。そんなわけでこのウーシュカは、わりと自由奔放に、のびのびと好き放題して生きてこられたのだ──今日までは。
今この瞬間、ウーシュカの眼前の波間に並んでいるのは、別に海上を走れやしない人間の雄がたった2匹。しかしその形相はさながら、片や修羅、片や羅刹。どちらも凄まじい怒りを立ち昇らせ、このウーシュカを、海帝リヴァイアサンが如き眼で睨み据えている有り様だ。「……バルガス、おまえ、魔法の腕は?」「ええ、たった今、覚醒したところです」──。無論、高知能とて人語を介さぬウーシュカに、男たちの会話の意味が正確にわかるはずもない。ただ、彼らは本気でこの自分を殺しにくる、ということだけが、はっきりと見て取れて。
一瞬の見つめ合いの後、派手な飛沫を上げてウーシュカが身を翻した。美しい黒毛の獣が、青海原を駆ける、駆ける。それはもう、伝説の駿馬グルファクシもかくやというほど、一陣の海風となって。だがその行く手に、掌にドラゴンの卵大の稲妻を掻き集めた壮年の雄のほうが、バチバチとそれを叩き込んだ。感電してひっくり返るウーシュカの太い胴体、そこめがけ。いったいどうやってか、海上から高く高く躍り上がった若いほうの雄が、魔法で錬成した氷の槍を大きく大きく振りかぶる。ウーシュカとて本当に死ぬとなれば必死だ、慌てて周囲の波を操り、圧倒的質量の水の盾で切り抜ける。忌まわしそうに叫ぶ若い雄、追い込めと叫びながら猛然と泳ぎ寄ってくる年嵩の雄。雷鳴が轟き、氷雪が荒れ狂い、大波がのたうち回った、その果てに──。「……おまえたち、いったい何をしているんです?」。雁字搦めに絡まり合った、馬一頭と男ふたりの目前に。小舟でようやく駆けつけたギルドマスターが、指鳴らしひとつで全ての現象を止ませながら、呆れた声を投げかけるのだった。)

(──かくして。ようやく浜辺に上がったギデオンとバルガスは、駆け寄ってきたそれぞれの女性に、奪い返した水着の上衣をしっかりと手渡した。代わりに優しくかけられたタオルで、濡れ髪を掻き込むその真横。しわしわの電気鼠のような顔をして浜に上がってきたのは、例のエッヘ・ウーシュカだ。頭をがっくり項垂れたまま、ギルマスからの静かな──誰もが居た堪れない気持ちになると評判の──説諭を喰らっている奴を見て。最初こそ、「ギデオンとバルガスが自分たちの女を巡って魔獣と決闘してるらしい」と面白がっていた連中も、そのけだものがマドンナたちの水着を盗んだと聞き知るなり、皆群がってやいのやいのと罵りはじめる。──その中からすっと進み出て皆を黙らせたのは、誰あろう、ダークオークも裸で逃げ出す恐怖の女山賊こと、カレトヴルッフ前代三人娘たち。「うちのビビとリズに──」「──不埒な真似を──」「──したんですってね?」。妖艶な大人美女たちに近寄られたことで、最初こそ性懲りもなく元気を取り戻したウーシュカだったが。彼女らと目を合わせるなり、ギデオンたちよりよほど恐ろしい敵に捕まったのだと悟ったらしい。その全身をがくがくと震わせながら、にこにこ顔のリッリが「ん?」を差し出す片手の上に。己を唯一支配できるもの、魔法で編まれた頭絡を差し出して……人間に対する完全服従を、自ら誓わされたのだった。)

(それから二時間ほど過ぎたころ。デレクとカトリーヌ主導によるスイカ割りを楽しんだ一同は(因みに、手からすっぽ抜けたこん棒がジャスパーの後頭部を見事強打する一幕があったものの、もはやお約束過ぎて誰も注目すらしてなかったとか)、いよいよ竈や網を持ち出し。普段より少し早い時間の夕食、豪勢なバーベキューで大いに盛り上がることとなった。大量の薪や食料を乗せた荷台は、もちろん例のウーシュカが嫌々曳いてきたものだ。「皆さん、どのお肉が欲しいですか?」と大皿片手に気を配って回るアリアに、先ほどからばくばくと焼肉を掻き込んでいるバルガスとギデオンだけが、「馬肉」「馬刺しをくれ」と、真横に控えるウーシュカ尻目に、息ぴったりに主張して。向かいにいるヴィヴィアンやエリザベスを破顔させたその後ろから、カレトヴルッフの招待したトリアイナの人々……その頭領たる海の男がやってきては、大笑いしながら馬の尻をバンバン叩き。「なアおめェ、食肉に潰されたくなきゃ、いい加減うちの馬になれよ。なあに、仕事を頑張ってくれんなら、ここ以外のビーチにも見回りに行かせてやっからよぉ!」──そう聞いた瞬間、みるみる生気を取り戻したウーシュカの、つぶらな瞳の輝きようよ。ブルヒヒィン! と汚らしい、喜びに満ちた嘶きよ。これからもこの愚馬は、港町の守り神として活躍することになるのだろう。今後金輪際、二度とグランポートには来るまいと、固く決意したギデオンである。)

(──そうして。五日間も続いたはずの訓練合宿は、あっという間に終わりを迎えた。片づけを済ませ、トリアイナの連中と別れを交わしたカレトヴルッフ一同は、昼のうちに荷造りを終えていた甲斐あって、すぐさまコテージを出発し。幌馬車に揺られること数時間……遥かキングストンに続く運河、その波止場へ辿り着くと、わいわいと押し合いへし合いしながら中型船に乗り込んで。真っ赤な夕陽に沈みゆくグランポートの海岸線に、いよいよ別れを告げたのだった。
川を遡上する関係で、帰りの船旅は二泊三日。この間もベテランたちは、今回の合宿のフィードバックやら、報告書の見合わせやらを行うのだが、合宿中に比べれば充分にゆとりがある。故に、ギルマスの新たな指示も聞きながら諸々の仕事を手早く片付けたギデオンは、すれ違ったアランと挨拶を交わし、デレクとカトリーヌを窘め(変顔を返された)。持ち込んでいる酒でも飲むかと入りかけた部屋で、何やら神妙に向き合っているレオンツィオとスヴェトラーナを目撃してすぐ踵を返し、結局何とはなしに甲板へと上がることにして。航路をだいぶ進んだこともあり、辺りには新緑の匂いが濃い。ここ数日はずっと潮風に吹かれていたが、やはり自分は森の人間なのだろう。樹の香りの方が、ずっと心が落ち着くようだ──そんなことを考えながら、デッキの柵に正面からもたれ、心地よい風に当たって。)



[PR]リアルタイムでチャットするなら老舗で安心チャットのチャベリ!
ニックネーム: 又は匿名を選択:

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字 下げ
利用規約 掲示板マナー
※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※必ず利用規約を熟読し、同意した上でご投稿ください
※顔文字など、全角の漢字・ひらがな・カタカナ含まない文章は投稿できません。
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください

[お勧め]初心者さん向けトピック  [ヒント]友達の作り方  [募集]セイチャットを広めよう

他のトピックを探す:1対1のなりきりチャット







トピック検索


【 トピックの作成はこちらから 】

カテゴリ


トピック名


ニックネーム

(ニックネームはリストから選択もできます: )

トピック本文

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字

※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください
利用規約   掲示板マナー





管理人室


キーワードでトピックを探す
初心者 / 小学生 / 中学生 / 高校生 / 部活 / 音楽 / 恋愛 / 小説 / しりとり / 旧セイチャット・旧セイクラブ

「これらのキーワードで検索した結果に、自分が新しく作ったトピックを表示したい」というご要望がありましたら、管理人まで、自分のトピック名と表示させたいキーワード名をご連絡ください。

最近見たトピック