匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……ッハイ!
( ──私も一緒に戦わせてください! そう口にしかけた懇願はしかし、相手の覚悟の決まった背中を前に短い快諾にしかなってくれなかった。後になってこの時のことを、その頼もしい背中に見蕩れていたとでも正直に言おうものなら、こっぴどく叱られたかもしれない。ともかく、愛しい恋人を映した瞳を、ハート型にとろん、と溶かしていたその時。それでもいい募ろうとしたビビにダメ押しをしたのは、ちょうどザブザブと波を掻き分けながら、こちらへと近づいてきて、「ごめん、ビビはリズを浜まで連れて行ってくれないか」と、ビビ同様サイズの合わないシャツを羽織らされたリズを差し出して来た、その赤い頬にくっきりと掌の跡をつけたバルガスだ。大きさと位置から見るに、リズのそれではなく自分で叩いたかのようなそれと、真っ赤に血走った白目は太陽のせいで誤魔化すには随分なそれだったが。ともかく、魔獣という脅威を目の前にして、一般人を安全に避難させるのも冒険者の立派な仕事だ。浜辺に戻りながら親友に話を聞けば、さもありなん……というしかない苦難がバルガスのことをも襲っていたらしい。「リズ、リズちゃん!」と声を張り上げる自分に気がついて──バル君! と甘えるエリザベスを、最初こそいつもの爽やかな笑顔で受け止めたバルガスだったが、可愛い幼馴染の上衣がないことに気がついた途端。それはそれは素晴らしい速さで自らの上着を被せて、何処までもスマートに浜へと戻ろうとした動じなさに、とうとうエリザベスがキレたらしい。──私怖い、だかなんだか。白々しいことを言いながら抱きついてやれば──あとは男女のちちくりあいなぞ、右から触るか左から触るか程度の違いで、ビビ達と取り立て語る程の違いは無い。「あれで反応しなかったらどうしようかと思いました」と、やたら満足気な親友に──自分も無意識にもっと酷いことをやってのけたことには気づかずに──うわぁ、と。お陰で見たことの無い目の色をしていた槍使いに同情を深めるばかり。慌てて砂浜へと向かわず、ゆったりと浜に平行に泳ぐ──沖に流された時の対処法を冷静に守りながら、段々と落ち着いてきたらしい親友に怪我がないか、痛むところはないかと念入りに確認をして、やっと陸に戻れた頃にはさて、男共の決着はどうなっていることだろうか。 )
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