匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(昨年のグランポートの海上でも、ギデオンの軽々しい謝罪をこうして怒られたことがあった。そう、ヴィヴィアンはいつだって誇り高く、思慮深い女性のはずなのだ。だというのに、いったい何をすれば、またそんな軽率極まりない一言が口から飛び出してしまうのか。反射的に鋭い目でそちらを睨みかけたギデオンは、しかし。海水に瑞々しく濡れ、細腕に柔く歪んだ巨桃をはたと見つめてしまうなり。再びぎゅんと、先ほどとは反対の方向へ、露骨に目を逸らす有様で。
──冷静な判断が遅れたのは、たぶん、おそらく、そのせいだ。不意にざあっと押し寄せる波、ヴィヴィアンの小さな悲鳴が上がったかと思えば、その体が傾ぐ気配を感じて。咄嗟に振り返ったギデオンが、同じ岩の上に乗りあげて相手を支えようとしたのも、そう、致し方のない話。──気づけば、いつぞやの冬と違って布一枚すら隔てていないすべらかな柔肉が、同じく素肌を晒しているギデオンの固い胴に、たゆんと無防備に押し当てられ。羞恥のせいでかえって起こってしまったらしい何かしらが、逆に思わせぶりなほど軽く擦りつけられた感触に──堪えきれずに漏れ出たらしい、持ち主の艶やかな、聞き逃せるはずもない吐息。相手を支えるべくその薄い肩を掴んでいたギデオンの掌は、一瞬不自然に固く強張り。そうして、思わず中空に目をやったまま、完全に思考停止状態で見事なフリーズを晒していれば。恥ずかしさに顔を覆い隠していた恋人が、きゅっと揃った白魚の指の下から、真っ赤な顔と潤んだ瞳で、おずおずと上目遣いに見上げてくるのだ。──耐えきれるわけが、ないだろう。)
──……いいや。
なんにも………聞いちゃいない…………
(苦し気に絞り出したのは、言葉の上こそ否定ではあるものの、どこをどう聞いてもその裏返しを意味しているのを隠しきれていない声音。眉間に皴を寄せて目を閉じる、苛立ちを耐え忍ぶようなその表情に至っては、もしや相手にも見覚えがあるのではなかろうか。──そこに突然、再び押し寄せた強い波が、戦士の体幹をぐらつかせてヴィヴィアンと密着させてくるとなれば、これはもう、何かしらの超法規的作為が働いていると恨むほかあるまい。「────ッ」と、声にならない呻き声をあげるなり、飛沫を立てて距離を取るものの、無論とうに手遅れで。ろくに相手の顔を見られず、ざばっと音を立てて大きな背中を向けてしまうと。骨ばった片手で顔を覆い隠しながら──こんな醜態時でも見目だけは優れているので、やたら様にはなっているのが滑稽だ──、絶望感に打ちひしがれた声で、聞き苦しい言い訳を。)
…………、言っただろう。
欲は……あるんだ……それなりに…………
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