匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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プ、ポ、ェッ……!?
( 夢のような時間も過ぎ去って、それはまだ唇の触れ合った感触も残る、一人コテージの部屋へ戻ろうとした夜だった。とうとう合宿のあいだ毎晩ここで宴を開いてくれた山賊……もとい、頼りになって美しい先輩方に見つからないよう、そっと寝室へと上がる階段へ向かったつもりが、酔っ払っても冒険者である彼女達の気配に聡いことといったら。サッと背筋を伸ばし表情を取り繕うも一足遅く、フワフワと周囲に花を飛ばした、周囲が照れくさくなるほどの女の顔を見咎められれば、女社会とて追求の手の手厳しいことには変わらない。すわ、いったい訓練をサボった何シてたのかしらぁ。やだわ決まってるじゃない。数日前のアレはなんだったんだ──等々。ベテラン捜査官達の前に、居た堪れない針のむしろに耐えかねて、あっさり今日の全てを自供すれば。次の瞬間「──ははプロポーズじゃん」そんなこれまでのやり取りを、隣で聞くともなしに聞いていたカトリーヌの一言がトドメとなって。口の端から奇声を漏らして首まで真っ赤になったヴィヴィアンは、折角の合宿最後の夜を処理落ち、及び気絶という形で締めくくったのだった。 )
──よろしくお願いします!
( そうして迎えた最終日。──昨晩寝る前の記憶が少々思い出せないのが気になるが──今日も絶好の訓練日和である。昨日のデートはとっても楽しかったものの、1人だけ必要な知識が抜けているという状態は好ましくなく。後からギデオンに聞くつもりでいたところを、こうして実践で補習していただけるなんて有難い!──と、ギルマスの指示に満面の笑みで返したのはまさかの自分だけ。周囲の目が明らかに死んでいることに気がつけば、一瞬遅れてじんわりとした羞恥に小さく縮こまっていたものだから。哀れフェルディナンドは、ビビに相手してもらえるどころか、その存在すら気付かれぬまま、ギデオンの雷撃に熱い砂に沈み込むことになったのだった。
そうして始まった合宿最期の訓練中。突如起こった強い流れに押し流されながらも、初日と違って冷静に周囲を伺えたのは、ここ数日の訓練の賜物に違いない。急な波に身体を強ばらせ、真っ青な顔をしていたエリザベスを何とか宥めると、陸から聞こえたギデオンの叫びに小さく手を振って無事の合図を。──大丈夫、私達は慌てずにゆっくりギデオンさんを待てば良い。冒険者としては少々頼りない判断だが、冷静な状況分析もまた何より大切だ。しかし、「浮いて待て、だね」なんて、習ったばかりのことを和やかに確認し合いながら、波に揺られていた2人と、他の参加者達がいる陸側との間に大きな飛沫が上がったかと思うと。大きな水の壁が2人を覆い隠すかのように立ち上がり、その中からそれはそれは美しい馬が現れて。
──ケルピー……いや、エッへ・ウーシュカ……? ギデオンも初日に言っていた、立派な黒い毛並み、張り付いた海藻、こちらを見て嬉しそうに伸び縮みする体躯は、その特徴で間違いないはずだがしかし、水を操る能力はケルピーじゃ……と、どちらにせよ危険な魔物に、非戦闘員のリズを背後に庇うも。此方の警戒を気にも留めない魔物といったら、呑気に鼻の穴を膨らませながらその顔を此方に寄せてくる始末で。──まだ自分の正体がバレてないと思って媚びているのだろうか。そっと刺激せぬよう上半身を反らせば、やたら満足気な獣臭い鼻息を吹きかけられて、思わずギュッと目を瞑ってしまった瞬間。勢いよく巻き起こったこれまでとは違った種類の水流に翻弄掻き回されて、沈みそうになる頭を必死にあげた瞬間。その立派な鬣があったはずの位置。白い……ここ数日でよく見なれた形状のそれが張り付いてるのを確認した瞬間。ハッと己の胸元を見下ろした隙を突かれ、いつの間にか可憐なセーラーも貼り付けた黒馬は、実に腹の立つ嘶きを上げたかと思うと、あまりのことに呆然と顔を見合わせる娘を残して、意気揚々と水上を走り出して )
な、なんだったの……?
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