匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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俺だけならって──おまえ、それはそれでなあ……
(ぱたぱたと軽い足音を立てて追いついた相手の無邪気な一言に、もはやお決まりになりつつある嘆息を。妙な真似を働いたりしないと信用されていることを、ここは有難がるべきか。だがしかし、酔った状態で男とふたりきりという状況を想定し、それで全く危機感を抱かれないというのも、いくら歳の差があるとはいえ、男の沽券的にはこう、アレではないだろうか。そんな至極平和な懊悩が脳内を占める日が来るなど、十数年前のギデオンを思えばまるであり得なかったはずだが、本人は気づくこともなく。「他所でもそうやって軽々しく煽るんじゃないぞ」と、ただでさえ数多の男に狙われている彼女の身を案じるように釘を刺すことにして。)
……普通の採掘方法じゃなかったのかもしれん。今の行方不明者も、それで鉱夫にされた可能性はあるが……地理的に、グランポート周辺に金鉱山なんてないはずだ。川から砂金をさらうにしても、ここいらじゃ下流すぎて大した量は採れないだろう。それならいったいどこから……?
(その十数分後、ひっそりと開館していたグランポート歴史資料館にて。自分の口から零れたのは、疑念あらわな声だった。館内の思わぬ涼をありがたく享受していた矢先、相手の感嘆に振り向いてみれば、そこには見事に輝く黄金の腕の像。自分もそこに足を向け、相手が視線を注ぐ先に、台に片手をつきながら一緒に覗き込み──ふと、怪訝に思ったのだ。ガラスケースにしっかりと守られて展示されている彫像は、美しいことには美しいが、言ってしまえば与太の類。こんな贅沢品を作る余裕があったということは、当時それほど大量の金が採れたということ、しかしそれはいったいどうやってもたらされたというのだろう。それに、相手と眺めた商店街には、金工芸の郷土品などひとつとて見当たらなかった、名残を受け継いでいそうなものすら。一般的な鉱業都市では冶金魔法が発達するものだが、グランポートにそういった評判があるわけでもない……街のあちこちに活かされている魔法文明は、水産業と観光業に相応したそればかりだったはずなのだ。それらを踏まえて考えれば妙に浮いている、この黄金の遺物とグランポートの古い歴史。それがどうにも引っかかる。だが、もう一度読み込もうと相手に寄せた頭には、現実的な経験と各地の風土に関する見聞がある程度蓄積されているからからこそ、いにしえの魔物の仕業という可能性がまるきり抜け落ちてしまっていて。記されている以上の情報はないと諦めをつけてしまえば、垂れた前髪を掻き上げつつ身を起こし。「……エウボイア号についての特集は、現代のコーナーにあるらしい。とりあえず、金の歴史も確かめがてら時系列順に観ていこう」と、ひとまずの提案をして。)
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