匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
(ここまでの道中、何とはなしにお互い黙っていたものだから。浜辺の小屋に着き、傘を振るって折りたたみつつ、なんと切り出すべきか考えていた。先ほどのヴィヴィアンの、昨夕ほどは強張っていない様子……けれど、今日一日ほとんど話していなかったこと。それらを踏まえ、どこから触れれば、目指すものに近づけるだろうか。しかし、先におずおずと伸びてきた手に、少し驚いた顔を上げ。目の前の若い娘の、ふるふると躊躇いながら勇気を振り絞ろうとする様を、ふと表情を変え、決して邪魔せず静かに見つめる。──そうして転がり出てきた言葉に、一瞬きょとん、と目を瞬くと。小さく吐息を漏らすように笑い、真っ赤な顔を逸らしている恋人の方に一歩近づいて。)
──……、したいよ。俺は、それなりに……欲深い人間だから。
(決して昨夕のような仄暗い声ではなく、寧ろ穏やかに落ち着いた声で、あっさりと肯定すれば。夜風にたなびく栗毛の束を軽くすくい、彼女がこちらを向いたタイミングで、緩やかに微笑みかけるだろう。ふと促すように視線を逸らせば、その先にあるのは、砂に半分埋まった大樽(おそらくこの簡素な小屋は、これに合わせる形で建てられたものなのだろう)。手を繋いだままそちらに歩み寄り、上に被っているボロ布をどければ、幸いその下は雨に濡れていないようで。先に腰を下ろす形で相手の手を緩く引き、隣に座るよう促すと、足元に転がっていたランタンに火魔法をぽうと灯し。小さな明かりに照らされながら、脚の間で両手を軽く組み。至極落ち着いた、けれど自分の本心を隠し立てもしない様子で、隣の相手の顔を見て。)
いきなり変な態度をとったのは俺の方だから、おまえは何も悪くない。怖がらせて悪かった。
……お前に対して、そういう気もある、と思うと……やっぱり、怖く感じるか。
トピック検索 |