匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
( どうやら正気を取り戻したようなギデオンの謝罪に、ヴィヴィアンの表情にほっとあどけない安堵が滲む。しかし遅れて、恋人として"当然"の触れ合いに応えられなかったことを痛感した途端。……嗚呼、ギデオンさんに捨てられたらどうしよう、と。優しい恋人を信じたいにも関わらず、7年前のトラウマが蘇り、どうしようもなく涙が滲む。それをギデオンの大きな手が拭ってくれて、その後も……欲しい言葉、欲しい温もり、ヴィヴィアンが望むもの全てを与えてくれる大人な恋人に、己の未熟さを痛感するばかり。ごめんなさい、ごめんなさい、ギデオンさんが嫌な訳じゃないの、本当に貴方のことが世界一好きなんです……そう伝えたいことは沢山あるのに、ショックで震え上がった声帯は未だ仕事をしてくれず。並んで歩く集合場所までの短い間、ただ優しい言葉にこくこくと頷くだけで、徐ろに立ち上がったリズに引き取られるまで、とうとう大好きなはずの恋人の顔を見ることも、温かい手を握り返すことも叶わなかった。 )
──どのくらい、って……。
~~っ、その! ギデオンさんも、私と……"そういうこと"、したいと思いますか!?
( ──待って待ってどういうこと!? 寧ろまだしてないの!? そんな叫びから始まった女子会は、最初からフルスロットルで始まった。「はぁ~、もうギデオンの激ヤバ性癖が聞けると思って来たのになぁ」と、ワイングラスを傾けたフリーダを、「本人は真面目なので面白がらないであげてください」と諭したリズの膝の上。よく通る先輩の叫び声に吃驚して縮こまったヴィヴィアンが、スンスンと親友の膝に涙の染みを作っている。その小刻みに震える頭を優しく撫でて、「ごめんなさいねぇ。ほら、いつも手がかからない後輩が悩んでるって聞いたら、力になってあげたくなるじゃない?」と、最早此処に来た真意を隠さないリッリの物言いが逆に心地よくて顔を上げると、その横でずっとハラハラと此方を伺っていたらしいアリアが、腫れ上がって明日に響きそうな瞼を冷やしてくれて。それにうぅ~っと甘えた声を上げれば、それまでずっとカトリーヌに構っていたエスメラルダがベッドから降りて来て「それで、ビビは何をそんなに悩んでるんだ?」と、その真面目な顔にまたポロリと涙が零れてしまった。
何を、と問われれば──結局、己の未熟さ故にギデオンに見捨てられるのが怖いのだ。優しい恋人は絶対にそんな事しない……と、7年前だってそう思っていたその結果がどうだったか。──友達だと思っていた同級生の視線が、成長期と共に此方の身体にばかり注がれるようになり。親切だと思っていた同僚が、一度仕事中の事故で触れ合ってしまってから、ニヤニヤと何度も擦り寄ってくる。そして、誰より優しいと信じていた、大好きだった少年は、嫌がるビビを暴こうとして止まってくれなかった。そんな……そんな、本来は穏やかでまともだった筈の彼らを狂わせる、"何か"が、あの虚ろでギラギラと光る瞳が怖くて怖くて堪らない。──それを子供なのだと、人生の楽しみを知らないと笑われようと、我を忘れるような快楽など要らない。大好きな人と手を繋ぎ、ただ抱き着いて、たまに口付けられるだけで良かったし、同棲して一ヶ月。手を出してこない恋人に、もしや相手もそうなのではなかろうかと、身勝手に都合の良い妄想へと逃げた挙句。結局、他でもないギデオンがやはりそれ以上を望むというなら、自分はどうすれば良いのだろう。ギデオンのためなら、痛みも恐怖もきっと我慢してみせるという想いはあるが、それで彼が今まで関わってきた素晴らしい女性達に勝てるだろうか。ビビの知らない"何か"がギデオンを狂わせて、やっぱり他の娘がいいと言われたらどうしよう。
──そんなヴィヴィアンの支離滅裂な泣き言を、「それギデオンに言ったことあんの?」と遮ったのは、いつの間にか目を覚ましていたカトリーヌだ。フリーダのちちこをつつこうとして、ピシャリとやられた手を擦りながら欠伸を漏らした女剣士の一言に、それまで静かに相槌を打ってくれていた周囲も一気に爆発する。決して女が安心して過ごせるとは言いきれない世間への呪詛から、ビビへの同情。話がギデオンの不甲斐なさを責める方向性へ行った時は、慌てて話題を逸らそうとして、何故か自分がやたら可愛がられたり。最後には──これだけ歳の離れた娘と付き合ってるんだもの。経験値の差なんて織り込み済みでしょうから、私も本人に相談するのが一番いいと思う、と始めたフリーダが、「それに、案外シてみたらハマっちゃったりしてね」なんてやたら美しいウィンクを飛ばす頃には、全員良い感じに酔いも回って時刻も日を跨いていて。話題は自然と、"実践"で使えそうな技の講習に移っていく始末だった。
そんな女子会及び宴会の後、誰のものとも分からないベッドに入り込んで、今日のことを振り返る。──相手に相談しろ、なんて。全員いとも簡単に言ってくれるが、それが恥ずかしいといったらないのに。…………明日。少なくとも、今日も態度は謝らなくちゃ。タイミングがあったらいいのだけど、と胸中の不安にころりと寝返りを打った先。何かが指先に触れたのを確認すると、全く誰が持ち込んだのやら、先程の"夜の講義"で教科書として使われた小説に、顔を真っ赤にしてシーツに潜り込んだ。 )
トピック検索 |