匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……馬鹿を言うもんじゃない。だいたい、おまえはそんなに飲める方でもないだろう。
(呑気によそ見していたせいで、不覚にもそれを許してしまった。ふと気づいたときには、己の太い左腕に華奢な細腕が密に絡みつき、何ならふんわりと柔らかな──それでいて確かな質量のものすら押し当てられている有様で。ほんの一瞬、脳内に宇宙を広げながら無の一色に染まる横顔。しかし以前と違うのは、それでも歩みを止めはしなかったこと、そしてすぐに目を閉じて小さく息を吐く程度には、我に返るのが早かったことだ。……恐ろしいことに、相手のこういった積極的なアプローチに慣れ始めている自分がいた。流石に男として反射的な動揺はするものの、最早いなせないほどではない。どこか気遣いも交じって聞こえる、しかしちゃっかりと私欲いっぱいの声に対しては、呆れ顔で見下ろしながら無慈悲な却下を。ついでに空いているほうの手を裏返しに持ってきて、相手の額を手の甲の山でこんと、窘めるように小突く。瞬間、パチッと閃く雷魔法。それでもその威力は、古馴染みたちにぶち込む時の百分の一以下だろう──元々魔力の保有量がかなり少ないギデオンは、高火力の魔法を何発も撃ち込むような芸当が叶わぬ代わりに、繊細な微調整ならば比較的得意である。冬場の金属に触れて起こる静電気にすら劣るであろう、見かけ倒しのそれで相手の気を逸らす間に、不埒な事態になっていた腕をするりと振りほどいてしまい。そうこうするうちにも、付近の海岸線を一望できるであろう丘の上に建てられている、古めかしい資料館の屋根瓦が見えてきて。)
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