匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(およそ人間にはあり得ない速さで涙を引っ込めた女悪魔が、最早暗器じみた速さでその黒い爪を繰り出す。反射的に避けたものの躱しきれず、ブシャッと派手な血しぶきが迸り──しかしアーロンは平然と、冷ややかな目でヘレナを見下した。──ギデオンが来た、自分を忘れずにいてくれた。それだけで己には、据わる覚悟というのがあるのだ。
びゅっ、びゅっ、と血を噴く傷口に、怠そうに……しかし妙に画になる角度で片手を当てながら。もう片方の手で再びぱちん、と指を鳴らし、“躾”の魔素を流し込む。──傍目には、泣き濡れる愛らしい少女を眉一つ動かさず虐待する、残酷極まりない光景だろう。無論アーロン自身には、ヘレナをまたも裏切っている、などという感覚は微塵もない。故に、瓦礫のひとつに腰掛けて、うんざりしたように天井を仰ぎながら。赤く濡れた首元の傷を、みるみるブクブクと──人に非ざる肉の蠢きを見せながら癒していって。)
おまえが好きなのは、結局は自分自身だろ? ……僕自身もそうだけどさ。
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