匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……っ、もう大丈夫、大丈夫ですよ。
( 此方の思わぬ行動を受け硬直する身体に、ビビもまた奇しくもあの建国祭の夜を思い出していた。あの日、彼に似合わぬ弱りきった表情で『何人もの人生を壊してしまった』と、罪悪感で濡れた声を漏らしたギデオン。──あれから何度密かに考え直してみても。もし本当にギデオンが、故意に誰かの人生を壊したのであれば、あの公平正大なギルマスが彼の在籍を許しているわけが無い。ギデオン・ノースという冒険者に、急な降格だとか処分の噂が残っていない以上、きっと彼にはどうしようもなかった、責任を問われるべき立場にもいなかったような出来事だろうに、今も彼はそれに囚われ苦しんでいる。とはいえ、件の詳細どころか概要も知らぬ自分ではその痛みを取り去ることも、同情することすら許されず、彼が言いたがらないことを周囲に聞くのもはばかられて。……せめて、全てを背負い込もうとする彼の荷を、背負う手伝いは出来ずとも、自分まで背負われてしまうことは避けたい。そう願って、頑なに強ばっていく身体を溶かさんと、己の体温を分け与えるようにぴったりと身体を合わせ、時たまゆらゆらと上半身ごと揺らしながら、先程自分がそうして貰い安心したように、広い背中と頭を優しく撫で続ける。中々緩まない身体に、やはり自分では力不足だろうかと、一抹の寂しさが胸をよぎった瞬間。急に強い力で抱きすくめられて、一瞬息が詰まった。後から伝わってきた呼吸の震えに──ああ、やはり、と。それを先程の恐怖から来るものだと誤解しながらも、ギデオンが珍しく見せてくれた感情の発露に、それを邪魔してしまわないよう。また、そう簡単に傷つくようなヤワな出来ではないのだと伝えるように、苦しい呼吸を気取らせないよう気をつけながら、自分より遥か年上の男を甘やかし、撫でさする手を再開して。ただただ相手を安心させるためだけに、それこそ幼子のように押し付けられたそれに、自身の頭を寄せ、細い声で囁いていると、徐に音を発した魔道具にその場の雰囲気が霧散していくのを感じ取る。──この連絡だってそうだ。ギデオンは皆に愛され心配されている。ビビの想いなどそのほんの一部にしか過ぎないが、少しでも伝わってたらいいな、と。すっかりいつもの様子を取り戻しつつある相手を深追いするでもなく、膝を立て下半身に力を込めれば、抜けていた腰も復活したようだ。かなり無茶な治療を施したというのに、『シャバネ』の時とは違ってまだ余裕のある体調に、相手との相性の良さを再確認すれば、自然と柔らかい笑みが漏れる。相手より一足早く立ち上がり、未だ地面に腰をつけているギデオンを振り返ると、いつもの明るい笑みをと共にその手を差し出して。 )
──あまり皆さんをお待たせしても申し訳ないですし……そろそろ一緒に帰りましょうか!
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