匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(それはあの晩にも自分を包み込んでくれた、温かな浄化の光。ヴィヴィアンに縋りつかれるまま、ギデオンの強張った身体が時を止めたように静止する。──右肩に埋まる爆弾が、優しく洗い流されていく。必然、乱暴を怯ませる枷がなくなり、暴走状態のギデオンを止めるものがいよいよなくなってしまうわけだが。覚悟を決めた相棒の流し込む圧倒的な聖の魔素、奇跡的な相性の祝福は、昏い水底に沈められた理性にも確かに触れてくれた。己の真下に取り篭めた娘の、震えながらも寄せられた勇敢な温もりを、そこで初めて感じ取れば。──彼女を自分自身から守らねば、という意志が、急速に強くなっていく。……やがて光がほどけた頃、再び闇に沈んだ倉庫には、衣擦れも荒い呼吸も聞こえない、完全な静寂が下りて。)
…………。
……ヴィヴィアン、悪い。こいつも……治して、くれるか。
(それをそっと破ったのは、相棒の頭を撫でながら耳元に口を寄せる、落ち着いたギデオンの声音。──ヴィヴィアンが恐れたのは、自分が乱暴されることより、ギデオンが暴走の末に命尽きることだったのと同じで。本来のギデオンもまた、他ならぬ自分自身が彼女に狼藉を働くこと、それほど恐ろしいことは他にない、そう考えた。そんな過ちを犯すくらいなら、いっそ──と。先程の大暴れの際棚から落ちていた短剣に手を伸ばし、己の横腹を躊躇いなく切り裂いて生まれた傷。それがふたりの横に、少しずつ血だまりを広げているのが、相棒のヒーラーたる彼女に知らせねばならない現状で。流石に燃えるような痛みを感じはするが、今はそれすらもありがたい……おかげで今や、意識が完全にはっきりしている。とはいえ──グランポートの孤島や『シャバネ』の看護室で、生来の魔法力に飽かせた治癒魔法を施した相棒が、その後どんな状態に陥っていたか、もちろん忘れたわけではないのだが──このままどくどく流血し続ければ、死ぬことはなくとも、長く気絶してしまいそうだ。僅かに体を起こし、少し決まり悪そうな微笑みを浮かべて見下ろしたのは、そういった事情によるもので。ある程度の失血によって興奮状態が完全に引いたのを自覚すれば、……流石にもう、大丈夫か、と。安心したように顔を逸らして息を吐くと、片側に転がるようにして、ゆっくりと身体をどけ。)
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