匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(理性を取り戻したかに見えた相手の澄んだ眼差しに、一縷の希望を見出す。だが、直後の酒気たっぷりなふわふわした返事と仕草に、いとも呆気なく打ち砕かれ。思わず「違う……そうじゃない……」と低い呻き声を漏らしながらがくりと項垂れて。気の抜けた笑みも、らしくもない大きなしゃっくりも、それ自体は確かに大変可愛らしいのだ──捧げる相手がこの自分でさえなかったら。彼女にはその若さと美貌に釣り合う男がいくらでもいるはずで、ここでこんな枯れ木相手に道を踏み外すべきではない。若気の至りを押し止めるのも年長者の務めだ。頭を抱えていた間に思考をそう取りまとめると、やや疲弊の滲む顔を上げ、薄青い目でもう一度、彼女と視線を絡ませた。馬鹿正直に拒絶して泣かれてしまったら困る、しかしその場しのぎの嘘を吐けるほど軽薄な若さも残っちゃいない。だから己の声には、限りなく真実味に近い色を乗せて──)
……明日起きても気持ちが変わっていなかったら、その時にまた聞いてやる。だから今夜は一旦休め。朝の7時に、隣の市に行く馬車でついでに送って貰う話だったろ。寝過ごしたら大変だ、な?
(──うっかり刺激しないよう穏やかさにそう語りかけつつ、片手を伸ばし、形の良い小さな頭を優しく二、三撫でる。それはギルド仲間の幼い子どもを預かって寝かしつける際によく使う手つきであり、この時は”まだ”、決して女性扱いしているわけではなかった。要は(誤魔化されてさっさと眠くなってくれ)という情けない祈りの表れですらあるのだが、果たして相手にはどう働くだろうか。)
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