匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( 上等な絹地に負けない豪華な厚みのある上半身に、地面から聳え立つ長い脚、何より男性らしく整えられた髪型に、いかに普段何気なく下ろされている前髪が、この整った顔立ちによる殺傷力を緩和してくれていたかを思い知る。シンプルなフォーマルでさえ華やかな絵になる意中の相手に、思わず此方も目を奪われかけたものの、音を立てて散らばった資料によって一足早く正気を取り戻し、足元に滑ってきた一枚を拾いあげようとして、ギデオンか、はたまた憲兵団の化粧係か、どちらにせよ逞しい手がドレスのビビを屈ませなかった。小さく傾げた上半身へ差した影に姿勢を立て直すと、いつの間にか距離を詰められていた相棒の下『すっごく格好いいですね』だとか、『見とれちゃいました!』だとか、口の中に用意していたはずのそれらは、向けられた熱いアイスブルーの瞳に絡め取られて音にならなかった。「え、えと……まだカトリーヌさんの番、なので。もう少しかかるかと」と、途端にもじもじ頬を染め始めたヴィヴィアンに、どうやら筋骨隆々な乙女の味方は気を利かせて席を外してくれたらしい。つい先程まで、思い出しては吹き出すのを何度も何度も我慢して、きっと相棒にも話してあげようと思っていたはずの、腹筋を鍛えすぎてコルセットが締められないカトリーヌの話なんて、とっくに脳のキャパから霧散していた。ギデオンが縮めてくれた距離に応えるように、相手の艶やかな襟に手を伸ばすと、その形を弄んでは整えながら上目遣いに見つめ返す。この部屋に来る以前の予定では『手が届かないから脱がせて欲しい』と、背中の釦を見せて迫るはずだったと言うのに、ドレスと同じくらい真っ赤になりながらはにかんで、あまりにも子供っぽくて言う気のなかった本音を漏らしてしまったのは、全部思わせぶりなギデオンのせいだ。 )
──あの、このドレス……お花のところが、ギデオンさんのシャツみたいだなって、思って……選んだんです。
……その、えへ、可愛いですか?
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