匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(耳に届いた高らかな言葉を、すぐには理解できなかった。「……は、」と間の抜けた声を漏らし、何故かうるうるしているエメラルドの双眸をまじまじと見つめ返す。だが周囲から上がった歓声、その祝福するような声色で状況を否応なく飲み込めば、アルコールで多少温まったはずの肝が一気に冷え込んで。──いや、そんな馬鹿な。何がどうしてそうなった。あれか、『責任』と口走るからには、これは新手の慰謝料のふんだくり方なのか。しかし見知った限りの相手はそんな狡猾なタイプとは程遠かったはず、それが何故。口を開くも言葉は出てこず、ただただ目を見張るばかり。混乱がありありと見て取れるそんな硬直の間ににも、今朝方被害状況を説明した時のあの悲痛な面持ちはどうした、と言いたくなるほどにこやかな顔をした老婆が、ビビッドピンクのベリーケーキを自分と相手の前にさりげなく運んでくる。それはこの辺りの土地に長く住んでいるならば、結婚を控えた男女が式の前夜に食べる習わしのものとひと目で理解出来るそれで。ケーキを二度見どころか三度見し、「誤解だ」と必死に制してどうにか下げさせると、椅子の上で向きを変え、きちんと相手に向き直る。表面だけでも年の功の落ち着きを取り戻すと、しばしの思案で視線をさ迷わせたかと思えば、目を凝らすようにして相手の顔を覗き込み、噛んで含めるように言い聞かせて。)
……ヴィヴィアン、お前はまだ若い。冒険者にはよくあることだが──激しい戦いのあった日の夜は、たとえそらから数時間経った後でも、気が昂ってるもんだ。今は酒も入ってる、つまりはそういうことで、俺はそれに漬け込むような真似をしたくない。……意味はわかるな?
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