匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(苦しい状況だったにも拘わらず、相手は自分の言葉をまっすぐ信じてくれたようだ。怒りや悲しみで浮かべていた涙が、大きな安堵で綺麗に流れ落ちるのを見れば、ギデオンもほっとして張り詰めていた気配を弛める。実際、ヴィヴィアンとの関係が始まる前から、あの手の女で処理をする気がとうに消え失せていたのは事実だ──あの夏を過ごした今となっては、尚のこと。とはいえ、フィオリーナと寝たことがないわけではないので、彼女の信頼溢れる声にはほんの少し心苦しさを覚えはするのも正直なところ。とにかく、今は違うのだということをヴィヴィアン本人が理解してくれたなら、それでいい。ぎゅっと握られていた掌を、はにかみながら優しく緩められても、ギデオンがすぐには振りほどかなかったのは、そういった安心感や、一抹の後ろめたさによるもので。別にいいんだ、と言うように淡く浮かべていた微笑みは、しかし次の瞬間色を失うことになった。)
…………、
(言葉に詰まる一瞬の間、素早く思考を巡らせていたのを、果たして相手には気づかれただろうか。『嘘はつかない』、つい今しがた己が放ったばかりの台詞だが、まさかこんなにも早く墓穴を掘ることになるとは思わず、内心つうと冷や汗をかく──が、あくまでも表情だけは冷静に。小さなヒビ程度なら入ったかもしれないが。とりあえず、要らぬことを言わなければ良いのだ。詳しい話を聞き出されなければ、ギデオンも本当のことだけを話していられるし、相手の信頼を損ねずに済む──彼女に隠れてなにかこそこそする腹積もりがあるというわけでもない。気だるそうな声音で相手の方に水を向けたのは、そういった事情で。)
昔からの知り合いの婆さんが、この辺りに縁があってな。なんでも最近、妙なまじないとやらが広がっているとかで、厄介な気配がするから調べて欲しいと頼まれたんだ。……お前の方は?
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