匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
( この地区に足を踏み入れた時点で、まだ西の空にうっすらと橙の光を残していた目抜き通りも、今や完全に日が暮れて。立ち並んだ店から仄かに漏れ出る光の影に、やけに密着して歩く男女が増えてくる。時たま上がる品のない笑い声も、染み付いた酒と煙草、軽薄な香水の香りも、全部全部大嫌いだ──先程までは数m進むのにも苦労していた人混みを、怒りに任せて早足に突き進む間、女性の肩に回されていたギデオンの腕が何度もフラッシュバックしては、鼻が痛んでじゅんと目が潤んだ。これ以上なく酷い気分だというのに、背後からかけられる切羽詰まった声を嬉しく思ってしまう自分も確かに存在する。そんなぐちゃぐちゃに乱れきった感情を整理しきれずに、横に並んだ相手を無視したものの、立ちはだかられてしまえば止まる他なく。 )
ッ大丈夫です。少し驚いた、だけですから……
( 本当はわかっているのだ。ギデオンとの関係は、一方的な片思いを許されているだけの曖昧な関係で。彼に大切な人ができようが、誰と関係を持とうがビビに断る義理がないことを。それでも建国祭の夜、相手に少しだけ近づけたと喜んでいた自分は如何に滑稽だったろう。目の潤みが下瞼の縁を乗り越えるのを、自尊心だけで踏みとどまっている。惨めな自分をこれ以上見られたくなくて、何が大丈夫なのか自分でもよく分からないまま、体をねじって相手の脇をすり抜けようとするも、誰より大好きなギデオンに頼まれてしまえば、どうしたって後ろ髪を引かれてしまう。ゴミの転がった道へ一度踏み出した右脚を、無言で左脚の元に戻して、どうしようもない不安ごと自分の左腕を抱えるも、ギデオンの顔を見ることは出来なかったから、見つめられていることに気づくことは叶わなかった。 )
…………。
トピック検索 |