匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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戦士だからな、後援の仲間を助けて当然だ。……お前も無事でよかったよ。
(安堵したような小さな吐息。次いで、猫が額を摺り寄せるような仕草で温かく触れられれば、あまりに信頼に溢れたそれに内心動揺し、青い視線がかすかに揺らいだのだが。ぽつりと落ちた小さな声にふと表情を変えると、相手のつむじを静かに見下ろし。片手をそっと引き抜いて、その形の良い頭を二、三撫でてやることにした。──溌溂としたヒーラー娘、ヴィヴィアン・パチオは、その朗らかな笑顔の奥に、冒険者としての確固たる誇りを熱く宿した娘である。ギデオン自身、グランポートの海上でそれを見誤り、怒りを買って引っかかれたクチだ。その彼女がこうして、怖かった、と打ち明けるのは、やはり、それなりに自分は彼女の信頼を得ているのだろう、と理解するには充分で──それでいて、彼女の複雑な胸中を読み取るまでには至らなくて。ぽんぽん、とあやすような手つきを残すと、タラップに続く列が動いたのを見て、穏やかな声を落とした。)
……ほら、帰ろう。明日の昼には、キングストンだ。
(──果たして、そんな初夏の一幕から2カ月も過ぎた頃。熟練戦士のギデオン・ノースはその日、所属ギルドであるカレトヴルッフ本舎に、貰ったばかりの依頼完了書をすぐには届けないことにした。理由は単純、厄介な同僚戦士たちと顔を合わせないためである。何せ最近のあいつらと来たら、この残暑でついに頭が茹で上がったのか、「ビビちゃんといったいどうなったわけ!?」と鬱陶しいことこの上ないのだ。建国祭の期間中、若い彼女との妙な噂は一度鎮火したように見えたが、どうもそうではなかったらしい。「いや、どうなったも何もないが……」と落ち着き払って答えれば、連中は目をくわっと?き、ギデオンの胸倉に掴みかかって、「あんなにしょげてたビビちゃんがまた元気になって、同時におめえまでなんか顔つき柔らかくなってんだろお!? 何もねえわけねえだろが! 吐けよ! 花火観ながら何話したんだよクソ野郎!!」と、妙に鋭い勘を働かせてくる始末。以来しつこく追及され、煙に巻くのも面倒になってきたところだった。……そんなに自分の顔はわかりやすいのだろうか、と気になりはするのだが、それでも、あの夜時計台でヴィヴィアンと交わした会話を奴らに口外する気はない。それに今夜さえやり過ごせば、連中は長期クエストでしばらくギルドを留守にするので、また静かな日々を取り戻せるはずである。そう考えて、魔物狩りに出ていた郊外から自宅に直帰することにしたのが、しかし運の尽き。別の、長い長い面倒ごとの始まりとなってしまった。──同じキングストン市内でも、重要施設や歴史的建造物が居並ぶ中心部に比べ、西部のこの辺りは猥雑な街並みである。形ばかりの検問所を抜ければ、そこは華やかな所謂花街。例え目抜き通りであっても、お天道様が姿を消すなり、見目の良い男女が客引きに躍り出てくる。無駄に風貌の良いギデオンは、蠱惑的な衣装の娘たちからくすくすと声をかけられることも珍しくはない。それでも慣れたもので、平然とただ無愛想に、すべてを無視して突っ切っていけば、この色町より更に暗々たる場所に居を構えた自宅まで、まっすぐ帰りつくはずだった。「何だ、あんた生きてたのかい」と、やけによく通るしゃがれ声で呼び止められるまでは。思わず足を止めて振り向けば、そこには煙管片手に立っているけばけばしい身なりの老女。脇に黒服の護衛の男を二人侍らせたその威風堂々たる佇まいには、嫌でも見覚えしかないというもの。黒い毛虫がのたくったような付け睫毛をにたりと歪め、ギデオンがかつて何度か通った娼館『サテュリオン』のやり手婆その人は、愉快そうに囁きかけてきたのだ。「なあ、あんたにゃ昔散々貸しといたさね。うちの娘たちのことで聞いてほしい話があんだよ。──恩返しと思って、哀れなばばあにちょいと頼まれておくれよ」と。)
(そんなわけで、ちょっとどころではない頼みごとを、それより更にちょっとどころではない過去のあれこれの恩返し、もとい清算のため、引き受けることになったギデオンである。完全無報酬の依頼だが、抜け目のない婆のことだ、どんなに忙しくともギデオンなら断らない──否、断れないと踏んでいたのだろう。だからここしばらくは、昼の仕事が終わるなりこの三業地に赴き、可憐な辻君たち相手に聞き込みなど興じている。今日の調査対象は、一見普通の酒場にも見える『豊穣のホルン』の看板娘が一人、フィオリーナ。店内は早くも満席のため、通りに面したテラス席に腰を落ち着けて話し込もうとすれば、巻き毛の美婦はギデオンの膝に乗り上げてくるしたたかぶりで。「ねえ、もう一年はこっちのほうに来てなかったんじゃないかしら」くすくす笑いながらしなだれかかり、何ら感慨を浮かべていないギデオンの顔を、すべらかな指先で揶揄うように撫でるその手つき。かの偉大なるギュンター大佐を常連として縫い留めているのも、この熟れた手管なのだろう。「“おまじない”の話はしてあげるけど、ここじゃ聞き耳を立てられてしまうわ。“2階席”なら、きっとナイショ話にも向いてるのではなくて……?」だなんて、意味深な菫色の瞳に甘く乞われたところで、ギデオンの心は揺れず、寧ろうんざりしたようなため息を吐くだけだ。今はもう、その気がない。槍使いのホセと若妻が内々に挙げた私的な結婚式に出席して以来、どういうわけか、刹那的な快楽を求める気持ちが完全に湧かなくなっていた。「悪いがここで話したい。“夜食”を食べに来たわけじゃないんだ」そう言い、相手の肩を軽く押すようにして上体を離れさせれば、フィオリーナは少女のように唇を尖らせる。三十路手前にもかかわらず自然に愛らしいその仕草こそ、彼女の高い指名率の所以に他ならないのだが、生憎それはギデオンの目にまったく入らなかった。彼女と距離を取った瞬間、開けた視界の奥に見つけてしまったからだ。外の通りから石になったようにこちらを凝視する、この不埒な街にあまりにも似つかわしくない……夏中見てきた相棒の顔を。──いや、嘘だろ、何故。どうしてこんな場所に! ギデオンもまた、予想外の事態にただただ頭が真っ白になって凍りついていると、不審に思ったのだろう、フィオリーナがくるりと振り向き。「あら?」と小首を傾げ、ギデオンとヴィヴィアンをちらちらと交互に見遣ること2往復。状況を把握した途端、「あらあらあら!」と今度はやけに楽しそうな笑い声をあげ、ギデオンの膝からするりと滑り降り。テラスの柵からたわわな胸元ごと身を乗り出すと、「彼のお友だちかしら? ねえ、お手元のそれは地図よね、この辺りのどこかへお出かけ? 案内してあげるから、貴女もこっちにいらっしゃいな!」そう屈託なく微笑みながら、何やら面白い関係らしい、やけにうら若い“彼のお友だち”を、おっとりした声で呼び込んで。)
(/こちらこそいつもお世話になっております!
お詫びいただいた内容についてですが、実はこちらとしてはまったく差し支えない展開でしたので、どうかお気になさらず。もともとこの展開のイメージを強く持っていましたし、むしろ実際に取り入れてくださってとても嬉しかったです。本日リアルで忙しくしていたため推敲→投稿するのが夜の時間にはなりましたが、上記ロル自体も実は朝の段階でほとんど書き上げておりましたので、主様にいただいたそのままから何も問題なく続きを書けております。なのでどうかお気に病まれず……!
また、逆に自分はどちらかといえば、物語性優先のこうした確定展開を大歓迎しております。ある程度相性が合わなければ難しい、贅沢な遊びであると捉えておりますので……。なので、何か仔細がある場合などは遠慮なく相談を持ち掛けますから、どうか固く畏まらず、ゆったりくつろいだお気持ちでビビサイドのお話を紡いでくだされば幸いです。(何せ当方自身、普段から大いに好き放題させていただいておりますので……! いつもありがとうございます。)
この後の展開についてですが、
・テラスに寄る→3人で話、そこで共通の目的が発覚
・テラスを離れる→ギデオンが追いかけ、2人で話して共通の目的が発覚
と、どちらでもこの先に向けた対応がとれますので、或いは上記にない第三の道を含め、お好きなしていただいて構いません。フィオリーナはぽっと出のキャラなので、ギデオンへの働きかけなども合わせて、遠慮なく自由自在に動かしていただければ。彼女の勤める酒場『豊穣のホルン』は、一階で飲み食いし、気に入った給仕の娘を二階の宿に連れ込むような形態をイメージしておりますが、こちらもお好きに料理していただければと思います……!
ノリノリで書きたいだけ綴ってしまいましたが、ふたりで話すようになればまた適度に落としていきますので、ロルの長さにもお気遣いなく。今後ともよろしくお願いいたします。/蹴り可)
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