匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
(すんなり聞き入れてくれた相手は、打って変わって真剣な表情を帯び、薄い手を傷にかざして魔素を探知しはじめる。そうして彼女の意識が逸れているときのほうが、こちらも自分のペースでいられるからだろう、間近にいる相手を何とはなしに見つめることにして。若葉色の瞳に影を落とす長い睫毛、化粧を落としてうっすらと星の散った頬、普段よりどこか幼く和らいで見える素顔。普段とちがって結われていない温かな栗色の髪は、つむじの位置に不思議な懐かしさを覚えた──ああ、あのひととまったく同じだ。視線を外してほんのかすかに口の端を緩めたのは、皮肉に思ったからか、それとも切なくなったからか。あのひとの娘を自分なりに大事にしようと適切な距離を置いてきたつもりが、今はこんなにも間近に接してしまっている。師ははたしてどう思うだろう、ギデオンなら道を過たないと信用を置いてくれるだろうか。しかし彼女は空にいる、尋ねようにももう叶わない。……そうこうするうちに無事治療が終わったらしい、凝らしていた表情をようやくほぐして手元を拭うヴィヴィアンに、不安そうに尋ねられれば、遠くにやっていた心を目の前の彼女にきちんと戻して。安心させるような笑みを浮かべ、軽く肩を回して実際に調子を確かめる。疲労もついでに癒してくれたのだろうか、随分と軽くなったと実感すれば、そばに置いていたシャツを引き寄せて再び袖を通しつつ、感謝のこもった声を返して。)
ああ、大丈夫だ。……利き腕側の負傷だから、医者の爺さんの話を聞いたときは正直どうなるかと思ってたんだが。これならたぶん、何も心配はいらなそうだな。
トピック検索 |