匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(相手がほっと緊張を緩める気配、次いで幾分冷静さを取り戻した声。気を逸らすためにとりあえずで振った雑談は、どうやら無事功を奏したらしい。人肌程度に温められた黄金色の軟膏を、労わりの宿る手つきでてきぱきと擦り込まれつつ。患者を思い遣るヒーラーの問いかけには、「大丈夫だ」と唸り声を返す。実際、魔素が溶け込む独特の感触はあるが、嫌な感じはまったくしない……どころか、うっすら纏わりついていた重い痛みがすぐさま和らぐ気さえしていた。おそらくこの一週間以上の日々で、呪いのもたらす状態異常に下手に慣れ過ぎていたに違いない。甲斐甲斐しい手当てに感謝の念を覚えながら、ようやく落ち着いて目を合わせ、相手の提案に賛同を示しつつ。背面の傷痕も診て貰うべく、再び体の向きを変えて。)
……ロビーで聞いたんだが、上流を調べに行く話は船乗りたちの間ですでに出ているらしい。それについていってみるか。
(──責任感の強い船乗りたちは、自分たちの客に不便な思いをさせることが心底申し訳ない様子だった。いかつい見た目で言葉遣いもガラが悪いが、仕事においては誠実そのものな連中なのだ。カレトヴルッフの冒険者にもそういう人種はたくさんいる。なら、彼らはいわば同業者のようなもので、そうとなれば手を貸さぬ道理もないだろう。相手に身を任せながらも、もともとベッドに投げだしていた羊皮紙の束をふと左手で引き寄せると、相手が容易に手に取れる位置にぽんと置く。グランポートでの依頼をこなすにあたり、水妖の仕業の可能性を想定してキングストンから持ってきた資料だ。セイレーンやセルキーなど、特に海辺に棲む魔物についてが主だが、うっかり視野を狭めぬようにと、それ以外の水棲モンスターや、或いは水際で起こる怪奇現象などの類も含まれている。とはいえ、この中に正解があるとは限らないし、今は手掛かりもほとんどないので、適当な予習程度にはなるだろうが。そうしてあくびをひとつかみ殺す、正式な依頼ではないため呑気な構えがありありと出ていた。)
こいつらに目を通しておけば、現場に行ったときに何かしら気づくかもしれん。……ま、眠くなるのにもうってつけだろう。
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