匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
( 自身の不用意な発言が相手に与えた衝撃に気付かぬまま、と言うよりは、女としてのビビに大して興味のないギデオンが、今の発言を意に介す訳が無いと考えているようで。そんなことより、目下の問題である自身の寝巻きの前で腕を組めば、隣から聞こえるシャワーの音に気まずくなる余裕もなかった。テキパキと荷の整理を終えて、最後に取り出した今晩分のそれは、洗いやすさと速乾性、機能性に全振りした可愛らしさの欠片もないもの。そもそも男物のタンクトップと、紐で縛るだけの簡易なホットパンツはどちらも薄手で、ただでさえ気まずい一室でこれがよろしくないことくらいはビビでもわかる。──シスターに知られたら卒倒するだろうなあ、と学院時代の恩師を思い出せば、そもそも未婚の男性と同部屋な時点で手遅れかと諦めることにして。幸か不幸か、重ね重ねビビに興味を示さない上に、本人は隠しているらしいが、女慣れしたギデオンのことだ、案外涼しい顔で気にも留めないかもしれない。そう能天気に腕組を解けば、次の懸念事項を解決すべく、先程引き寄せて脇に置いておいた杖を手に取る。宙に魔法陣を描き口の中で小さく唱えたのは、グランポートで既に何度か唱えた蜃気楼魔法。これでギデオンの入浴を覗く──というつもりは毛頭なく、そもそもグランポートでは煌めきながら霧散して、ビビの姿を掻き消していたはずの魔法陣は、水蒸気にもならずに液体の水となってビビが慌てて差し出したグラスに落ちる。「やっぱりか……」と小さく唸ったのは、土地に伝わる古代魔法では良くあること。その地の魔素が発動に大きく関わっているらしく、苦労して身につけた魔法も他の場所では使い物にならないことは多々あるのだ。今回は水属性の魔法が使えるようになっただけでも、充分良しとするべきだろう。それでも、これがあればこの先どれだけ役に立っただろうと、名残惜しそうに溜息を着けば、その不純物の少ない冷えた水は、丁度シャワーを終えたらしいギデオンに差し出すことにした。 )
いいえー、おかえりなさい
ただの水ですけど良かったらどうぞ
( ギデオンの素っ気ない業務連絡も、今回ばかりは助かった。しっとりと濡れた金髪に、心做しか良い顔色、普段は油が少し抜けた質感の肌にも艶が乗って輝いている。見慣れぬ寒色のシャツもよく似合っていて、漂う同年代には出せない色香に、小さく動揺した胸中を隠せているつもりで微笑めば、「ありがとうございます」と、頬を微かに染めつつ、此方も端的なお礼をしてから逃げ込む様に浴室へ飛び込んで。そのまま、ギデオンの調節してくれた調度良い温度の湯で汗を洗い流す頃には、相手への下心とばかり戦っていたものだから、自身のあられもない寝巻きのことはさっぱり忘れていた。濡れて癖のきつくなった茶髪を下ろしたまま、ほこほこと湯気のたつピンク色の肌、頬も大きく空いた胸元も、太腿も無防備に晒して、浴室の扉を開ければ、気持ちよさそうに手で顔を仰いで。ギデオンがシャワーを浴びている間にできていた、女性の生活感が生々しい一角にぺたぺたと歩を向けて。 )
はー、涼しー……
シャワーありがとうございましたぁ
肩、準備するのでちょっと待ってくださいね
トピック検索 |