匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(言葉少なな自覚は、あった。ここできちんと話さなければ、だがやはり知られたくない──そんな葛藤がありありと滲む、自分勝手で独り善がりな言い回しばかりだったことだろう。だからギデオンの説明は、非常にわかりづらいものだったはずで。更なる詳しい説明を追求されるのではないかと自業自得な恐れに陥り、しばらくの間押し黙っていたのだが。……相手の反応は、予想とは大きく異なった。するりと細腕を回してきたかと思えば、暗がりで蹲る子どもをあやすように、ギデオンの頭を緩く、優しく、愛しむように撫でただけ。ほんのわずかにしか打ち明けられないギデオンの拙い言葉に、穏やかな相槌を打っただけ。あまりに慈愛に満ちたそれらに、最初は唖然としていたのだが。やがてギデオンの表情は、どこか敗北の色を宿したような、彼女の温もりを黙って味わうだけのそれへと変わっていき。体から、余計な力が抜け落ちていくのを感じる。──努めて堅く閉ざしていたはずの何かが、急速に、ほどくように融かされていくのを感じる。それでいて、それを食い止める気にはならないところに、彼女に抱きつつある己の感情の正体を、ようやく自覚しはじめていた。だから相手が、ほんの少しだけヒールを浮かせて温かく抱きしめてきても、返すような反応こそしないが、拒むような身じろぎも何ひとつ行わず。ただされるがまま身を寄せ合い、互いの吐息さえ感じ取れるような距離感で、相手が募らせる言葉にそっと聞き入る。……責任も何も、自分なんぞに惚れたというのなら、それはヴィヴィアンの勝手だ、なんて、先ほどまでなら言えたかもしれないが。こんな風に彼女の腕に優しく囚われた状態では、とてもじゃないが、そんな暴言を吐く気になれない。だから代わりに、ゆっくりと目を閉じてから、彼女の小さな頭に自分の頭をかすかに寄せて。一度だけ、ごく小さな声を落とす。それは聞こえこそ投げやりなようでいて、確かに彼女の要望を受け入れるもので。)
…………。……おまえの、好きにしろ。
(──歴然とした歳の差、相手が敬愛する師の娘であること、そして何より……到底消えぬ、己の罪深い過去。そのすべてが原因で、彼女の想いには応えられない。応えてはいけないという考えは、依然、決して譲れない。しかしそれを承知して尚、ヴィヴィアンもまた、ギデオンを慕い続けることを、諦められないというのなら。……互いに相手のそれを認め、互いなりに受け入れるのが、きっとひとつの落としどころなのだろう。幸せになって、という言葉には、今はやはり何も返せないが──長年患ってきた自罰の意識は、そう簡単には拭い去れないものなのだが。自分とじゃなくてもいいから、という言葉に切実な願いを感じてしまえば、どんなに野暮なギデオンとて、頑固に否定したりはしない。相手がくれるあまりに多くの祝福を、ほんの少しだけ、受け取ろうという気になっていた。……そのまま、どれほどそうしていただろう。不意に耳に届いた特徴的な音に、ふとそちらを見上げると。いつの間に始まっていだのか、風流のある派手な破裂音を鳴らしながら、色とりどりの大輪の花火が夜空一面に咲き乱れていた。これを観に来たはずだというのに、どうやら完全にそっちのけになってしまっていたらしい。密着していた体をごく自然に離し、しばし夏の風物詩に見とれてから、正面に立つ相手に目を戻すと。曇りのなくなった凪いだ声音を聞かせながら、足元の紙袋を抱え上げ、空いたベンチのほうを緩やかな身振りで示して、すっかり忘れていた夕餉に誘い。)
……冷める前にこいつを食べよう。飲み食いしながら眺めるってのも、悪くない。
(/たびたび背後が失礼します。花火デート編もきりよいところに差し掛かってきたので、今後のご相談をしに参りました(今回、ギデオンの心情をいつにもましてみっちりじっくり描写させていただきましたが、互いに対する愛情が着実に深まっていく過程を彼とともに追うのがたまらなく楽しく、何度も何度も読み返しております。特に今回のビビの慈愛の深さと言ったらもう……! いつも素晴らしいロルや展開をくださり、本当にありがとうございます)。
主様の方で、花火デート編の最後をこんな風に締めたい、この話が明けたら次はこんなことをしたい、などなど、イメージしているものはありますでしょうか? 当方もいくつか先の展開のアイディアはあるのですが、いかんせん直近に向きそうなものがなく……! もしあれば、是非是非お聞かせいただけると幸いです。)
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