匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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そうだったら、いいですよね。
( 狭いテント内から上がる熱い呻き声。上がった怒声に振り返れば、こんな私が人の役にたてることが嬉しいんです、と控えめに笑っていたマリアが、顔を青くして目に涙をため、鋭い嫌味が聞こえた方へ視線を向ければ、カッコつけの癖に毎日の鍛錬を絶対に欠かさないセオドアが、指先が白くなる程強く拳を握っている。静かな顔をして座っているリザの視線も、真っ先に恨みをぶつけられる受付では、心做しかいつもの鋭さが欠けていて。雪のように白い肌を真っ赤に染めているバルガスの腕を掴み宥めながら、ビビだって大切な仲間たちを罵倒する者達をテントから放り出してやりたい気持ちと戦っていた。治療においては自身の方が特性が高いとはいえ、ここにいるのがギデオンさんだったなら──と不毛な想像を何度も繰り返した相手に、( 真意は男同士の同情とはいえ ) 己に都合の良い言葉を貰ってしまえば、そう信じ込みたくなってしまう甘い己を戒めるように小さく微笑んで。 )
うわぁ……、……すご、い。
すっごく綺麗……。私、こんな素敵な場所初めてです。
( 今日の事件の裏で起きようとしている、何か大きく嫌な事態に今は気付かぬまま、祭りの喧騒に恍惚と目を細め、大好きな腕に引かれるまま歩を進めていれば、もうずっと遠くから見えてはいたが、風景の一部でしか無かった時計台を見上げて、目を大きく見開き。ギデオンと老人の間合いを見れば、入っていいんですか?なんて無粋な質問は意味が無いことくらいビビでもわかる。扉を抑えてくれた老人に柔らかい笑みを向けて小さな会釈をして。ギデオンの声がけに「ありがとうございます」とその袖をしっかりと掴み直せば、暗い階段をぐるぐると無言でのぼり。途中で現れた巨大な時計の裏側、その精巧な歯車や機械の噛み合い動く様に見とれていたから、バディが開けてくれた展望台の扉から飛びこんできた風景に、一瞬言葉を失って。天の川のかかる満点の星空に、下は色とりどりの魔法の光が大きな通りや、広場の形を浮かび上がらせ。その奥遠くにはキングストンの市民が毎日見上げる白亜の城が、今日ばかりは愉快な色の光に照らされている。正しく宝石箱をひっくり返したような光景に、走るのも忘れたかのようにゆっくりと手摺まで歩を進め、爽やかな夜風に髪を抑えて、感動のあまり表情時抜け落ちたあどけない顔でギデオンを振り返り。きっとそのまま、ビビが気まずそうに言葉を待っていれば、ギデオンは約束を果たしてくれたに違いない。しかし、バディの話したくないことを話させるのであれば、せめて誠実さだけは失わずにいようと、一度閉じて開いた目に、真っ直ぐな光を灯すと覚悟した表情で口を開き。 )
……、ギデオンさん、ギデオンさんがあの時私を振ったのは、私がシェリーの娘だから、ですか。
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