匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……ワイン以外なら許可してやろう。
(はにかみながら打ち明けられた要望に、一瞬ぴくりと眉を動かす。思い出すのは、眩しい陽射しが降り注ぐ海辺の町でのあの会話。たとえ男とふたりきりの状況で酒に強くない自分が酔いすぎたとしても、『ギデオンさんだけならいいじゃないですか』──などと。潮風に吹かれながらこちらの顔を覗き込んできたヴィヴィアンが、随分あどけなく笑ってくれたものだ。あの時こそ彼女の過ぎた無防備さについため息を零したが、それから半月以上経ち、他の様々な出来事も未だ記憶に新しい今、ギデオンの胸に沸くのは単純な懐かしさで。可笑しそうに目を細めては口角を緩く上げ、相手も思い出しているであろうあの夜のことを今さら揶揄ってやりながら、屋台に近づいて店主の妻に注文を。程なくして、揚げたてのファラフェルサンド、塩気と柑橘が爽やかに香るサバサンド、ラム肉と獅子唐を使った大振りのシシュケバブ数本、蓋つきの紙コップに入った冷たい酒、それにおまけの何かまで入れてもらった紙袋を、表に出てきた幼い少年に差し出される。それを片手で抱え上げれば、残る片腕の袖を掴むよう相手にさり気なく示しつつ、屋台を離れて再び何処かへと歩き出すことにして。……忘れてはいけない、今夜こうして一緒にいるのは、賭けに勝ったヴィヴィアンの望みを叶えてやるためだけではないのだ。昼下がりに交わした、聞き捨てならないあの会話。あれをきちんと続けられるような場所を、と思いながら採算辺りを見回すが、生憎どこも人、人、人、の大混雑っぷりである。参ったなと感じつつ、しっかり話したいと言い出したのはギデオンの方なので、責任を持って探さねばならない。自身の歩調と、先ほどの男のような不注意な輩の気配に注意を払いつつ、腰を落ち着けるまでの暇潰しにとりとめのない雑談を振って。)
昼間の件は大変だったな。そっちはどうだった、酷い怪我人はいなかったと聞いてるが。
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