匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……っ!約束ですからね!
( にわかに騒然とし始めた広場に、手馴れた動作で杖を抜く。撹乱を狙った組織ぐるみでの計画なら、この会場にも犯人や怪我人がいるかもしれない。警戒に目を細めて魔素の流れに集中していたところ、背後から真剣な声をかけられれば、冒険者らしい責任感に溢れた表情で振り返り。てっきりこの状況に対する指示を下されるものと思っていたということもあるが、いつもビビのアタックを曖昧にはぐらかすギデオンが、此方を真っ直ぐに見つめるものだから、素直な驚きに目を見開いてしまう。更に具体的な約束までギデオンから言い出してくれた。その真剣さを嬉しく感じて、つい頬が綻ぶものの、周りの状況と相手に対する怒りを思い出せば、喜びを隠しきれていない様子で態とらしく眉頭を寄せてから、騒音鳴り止まぬ現場へ駆け出した。ここまでされてギデオンに恨まれていると思い込み続けるほど卑屈ではない。相手の事情は分からないまでも、想像以上に自分はギデオンに大切にされている──今はそれだけで大丈夫、そう思えた。 )
( とはいえ、現場の状況はとても楽観視できるものではなく。祭りの人出に反比例するように、質屋や両替商、その他一部の商店は普段より人が少なく、鍵こそ閉めていたものの、従業員全員が祭りのメインストリートの方に出払っていた店舗さえあった。それを狙った同時多発的な犯行に、キングストン中の警察と警備要員の冒険者達は日が暮れるまで走り回るハメとなり。勿論2人も例外ではなく、犯人たちが捕まりギデオンと別れた後も、騒動と混乱のさ中、逃げ出した人々にぶつかり踏みつけられた怪我人の治療に追われ、建国祭最終日にして一番忙しい一日となった。
そうして駆け回っているうちに、建国祭の花火が上がる刻限が近づいてくる。やっと何とか事態が収まってくれば、本来シフトではなかった者達から帰宅が許されるも、今から下宿に帰って身嗜みを整えるような時間はなさそうだ。仕方なく顔の煤だけハンカチで拭えば、薄ら浮き出るそばかすは夜闇に隠れる、と信じることにして東広場へ歩を向けて。昼間の騒乱をもってしても、花火に集まる人出を抑えるには力不足だったらしく、夏の爽やかな夜闇を多くの出店や舞台の光が照らす明るい夜に、昼間とはまた違った雰囲気の装いの市民が増えてくる。周囲の楽しげな笑顔を見れば、それを守れたことへの安堵と歓喜が湧き上がるものの、出店のガラス細工に映った自分が目に入れば、小さく溜息をつき。半日人混みや破壊された建物の粉塵の中を駆け回って薄汚れた姿。前髪は汗でぺったりと潰れ、豊かなポニーテールは逆にくるくると膨れ上がって手に負えないボリュームを誇っている。気にしても仕方がないと頭を振り、昼間のギデオンに思いを馳せれば、彼は何を言わんとしていたのだろうかと、賭けに勝った歓喜の瞬間を思い出し、まだ残っている気がする感触にそっと唇に指を触れる。「──やっぱり、慣れてる……よね」思い出したのは、ビビの唇が触れても、大して動じていないように見えたギデオンの姿。湧き上がった小さな嫉妬心には気づかない振りをして、祭りの光に見とれつつ東広場へ足を踏み入れると、頬を撫でた生ぬるい風に気持ちよさそうに目を細めて。 )
ギデオンさん……もうついてるかな、
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