匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(今朝から続いていた空恐ろしい圧力が嘘のように綺麗に霧散し、代わりに以前の愛らしい無邪気さがたしかに戻ってきたのを見て、道中しきりに首を捻るギデオンである。女心というものは、やはりどうもよくわからない。それでも素っ気なくされるより遥かにマシなのには違いないからと、深くは考えずそのまま受け入れることにして。彼女が嬉しそうにケバブ屋台に飛んでいく間に、街路樹が涼しい影を落とす木製ベンチのひとつを陣取っておく。運営側の人間が一般客から席を奪うわけにはいかないが、観客が詰め合っているのはより良い席の設けられた前方から中ほどにかけてであり、幸い後方のこの辺りは充分ゆとりがありそうだ。相手を待ちつつそれとなく見渡してみれば、こちらをガン見する警備服姿の精霊使いや祓魔師とばっちり目が合った。『ヘ、マ、す、ん、な、よ!』と必死な顔で口パクしてくるのを、ヴィヴィアンに気づかれやしないか一瞬視線を巡らせてから、煩そうに手を振って一蹴。今日の彼らは本来休みのはずだったのだが、なんでも、今朝方目撃した“天使の豹変”にいたくショックを受けたとかで、この際ギデオンへの妬み嫉みを飲み込んででもこの場をお膳立てすることに決めたらしい。「午後からは私らが警備を補助しますから。だからあんたは絶対に……絶対に……彼女と仲直りしてくださいよ! 頼みますよ!!」と、午前中にすれ違った時にギデオンの胸ぐらをひっ掴み、泣きそうな顔で囁いてきたのだ。こうして現場にいるからには野次馬根性もあるのだろうなと呆れつつ、素直にありがたいのは事実なので、大人しく仮休憩を味わってしまおうと開き直る。ベンチの背に片腕を伸ばしてもたれかかり、脚を組んで寛ぎながら待つこと暫し。程なくして、華やかなスパイスの香るケバブサンドを両手にヴィヴィアンが帰ってくれば、満足げに微笑む彼女をじっと見上げつつ、差し出された包みを受け取り。「その言葉、おまえにそっくり返すぞ」なんて余裕綽々に口角を上げるのは、この手の賭けに自分がめっぽう強いことを経験則で知っているからだ。盤遊戯にしろギルドの馬鹿たちの喧嘩にしろ、ギデオンの賭ける方が大抵間違いなく勝つため、ホセやレオンツィオはギデオン相手に勝負を仕掛けるのを諦めきったほどである。相手には悪いが、花火の約束は再び流れてしまうだろう。それでもこうして相手の望みに付き合ったこと自体が、落としどころになるはず。そんな青写真を思い描いていたものだから、ダンスコンクールのビラを相手の方に差し出し、片眉をぐいと上げ。そこにはここ十年以上鎬を削り合うノミネート常連勢から、カレトヴルッフの槍使いたち、幼い子どもたちの微笑ましいチーム、土着信仰の伝統舞踊を身に着けた乙女たち、今年初出場のダークホースまで、様々な顔ぶれが載っている。開演の挨拶がこだますなか、どれを選ばれようと負ける気はしないと、こちらもささやかに挑発し返して。)
賭けたグループの順位が上だった方が勝ち、だな。……好きなのを選ぶといい。
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