逆転恋心 〆

「だって今日会ってからずっと様子がおかしいぞ。いつものきみらしくないし。大体ぼくの都合がつくかもわからないうちから店を予約って‥‥あっ！！う、ううん。こっちのこと！」
　
前々から食事の約束をしていた女性に当日急に断られてしまったので予約を無駄にしないため、一番暇を持て余していそうな友人である自分に返礼というタスク消費も兼ねて白羽の矢が立ったかもしれないという一般的な解釈に漸く思い至り。そういえばイタリアンはどちらかといえば女性に人気の店で、男同士で行く店候補に挙がる例は多くはなさそうだ。複雑な深読みをせずとも簡単に思い浮かぶ可能性であったのに御剣への行き過ぎた心配が目を曇らせていたことに照れ交じりに反省して、さぞや落ち込んでいるであろう彼に野暮なことを言って更に追い討ちをかけるまいと慌てて口を噤み。
おろおろしているうちおもむろに食事の手を止めて改まった姿勢をとる御剣に只事ではない雰囲気を感じ取り、同じように構えて固唾を呑み様子をこわごわ窺っていると一直線に伸びた視線と共に迷いのない目顔で耳を疑うような尊大な言葉が容赦なく飛び込んできて。あまりの言い草に呆気にとられて一呼吸ほど身動きがとれずにいたが、やがて身体全体を小さく震るわせたかと思うと千万無量の笑撃にこらえきれなかったために間を置かず盛大な動作で吹き出し。場所を一顧して声だけはどうにか押し殺すも我慢の反動で肩を勢いよく揺らして頭の中で反響し続けるまさかの物言いに衝き動かされるように大笑いし通しに笑い。本来の相手から待ち合わせを直前で断られた原因も恐らくここにあるなと、お節介だとは思いながらも笑いで小刻みにそして絶え間なく揺らぐ声音で諭し
　
「というか「施し」って‥‥！お前の十八番なのはわかるけど、他意はなくてもそういう小粋な皮肉はほどほどにしとかないと、いくらいいとこ勤めてて稼ぎがよくても女の子に嫌われるんだぞ？
ありがたくお恵みいただくよ御剣検事殿。真宵ちゃんにも食べさせてあげたかったなあ。お前の奢りで」