光梨 2022-03-09 19:01:29 |
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「神経質かな?御剣がとっても大切にしている車だから、ぼくも大切にしたいなって。欠かせない仕事道具でもあるしね。お前は仕事に誰より誇りを持ってるだろ?だからさ。
う、うん。そうだ。乗っけてもらうだけなんだよな。ありがとう。
いやあ、食事に連れてってもらえる上に車まで出してもらって。甘えっぱなしだ」
(一人で大騒ぎしていたこちらに対して気を遣ってくれたのか、心身共に不潔なことを人並み以上に嫌っているであろう御剣の思いの外寛大な言葉に軽く驚いて平常心に戻り。凜とした彼の声に微かな優しさがまぶされている気がして勇気付けられ、穏やかな気分で感謝と敬意を音声にして受け答えを終え深く長い深呼吸を一度したあと、意を決したように真剣な面持ちで一つひとつの本音を宝物でも見せるように慎重に語り)
「……わかった。正直に話すよ。ぼくは、お前と一緒にいたい。このまま帰ってほしくないんだ。
突然会いに来てくれたことにも、すごく久しぶりに御剣とゆっくり一緒に過ごせることにも浮かれすぎてるから調子っぱずれなのかも。あっ、もちろんお前の車に乗れることにも感激してるよ。
ただ、ちょっと緊張もしてる。離れていた時間が長かったから何を話そうかな、どんな話をすれば喜んでもらえるんだろうって。不思議だよな。ぼくにとっては一番の親友、なのに何も知らない……だなんて。だから、今日はたくさん教えてほしい。お前のこと」
(親友を敬愛する感情とはまた別に熱く重い塊のような形容しがたい気持ちを持て余していながら歯切れ悪くも絞り出した体裁のいい肩書きと、今現在の彼を「何も知らない」事実という、自らが発した二つの言葉で心臓を切り裂かれるような痛みを覚え。幾重もの頑強な鎖で巻き付けられた、心の前に立ちふさがる赤く一際大きな錠前を庇うようにして胸の前で両腕を抱き、自嘲気味な笑いを浮かべて小さく俯き。しばらく羞恥と御剣の眼差しと向き合う恐怖から顔を上げることができず、視線を足下に彷徨わせていたがなけなしの勇気を全て持ち出して彼へ出発の合図とばかりに微笑みかけ、笑顔の中に愛情をそっと忍ばせて差し出し)
「考えてみれば、今日に限らずこれから御剣を知る機会はいくらだってあるんだよな。そのことが嬉しくてたまらないんだ。誘ってくれてありがとう。
心配かけたね、ぼくがぐずぐずしたせいで寒い思いさせてごめんよ。お前が手伝ってくれたから心の準備もばっちりだ。さあ、出掛けよう」
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