三丁目のミケネコさん 2022-02-21 22:59:24 |
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「マグル界に?それはまた珍しいな。なんというか、その歳で……って、オレも同い歳だが。君は思ったよりも人生経験が豊富なんだな」
一昔前の異国ならばともかく、別に魔法使いがマグルに混ざることは禁じられていない。純血主義はそういったことは嫌悪するが、あくまでそれは思想だから関係ない。魔法省でもマグルの政府関係者と連絡を取り合っている者はいるし、家庭ごとマグル界に移動する者もゼロではない。
(だが、そうするとセシルはかなり良い家柄の出身者なのでは?マグルと関わりを持つ仕事はなにも魔法省だけじゃなく、それこそ学者になら多く見られるかもしれないが、どのみちそれなりに家柄は保証されるだろう。…………オレが知らないだけで、有名人……ということもあるのか?)
魔法省関係者なら兄や父のツテでそれなりに知っているが、クレスウェルというファミリーネームで役職を持っている者は記憶にない。だからマグルを研究するような学者か、あるいは異国の魔法省関係者とかか?オレが知らないだけでセシルは有名人だったのならば、無知を晒すことになって恥ずかしいな。少々踏み込みすぎたかと思ったがセシルの様子は変わらない。とはいえあまり根掘り葉掘り聞かれるのも嫌だろう、少なくともオレは嫌だからそれ以上深堀はせずに。
「こらっ…!え、えっち……って……。ゴホン!そういうのは、その……学校には置かないだろう……。解剖書とかそんなのじゃあるまいし……」
冗談めかしたその言葉に、明らかに挙動不審な反応をすればそれを誤魔化すように小さく咳払いをし。これでもお年頃な上にそういったことには耐性がないので唐突に話題に出されると弱い。多分、飲み物を口に含んでいたら吹いてしまってたかもしれない。なんせ、たった3文字を口に出すだけでも耳が赤くなってしまっているので。態度には出ているのでまたからかいのネタにされるかもしれないが、暗いので耳にまでは気が付かれないだろうということが不幸中の幸いか。
「グロテスクで言えば、禁じられた呪文関連はありそうだな。知識を仕入れたところでそんなものは使おうとは思わないが。あとは、学生が作るには危険すぎる魔法薬とかか。ああ、魔法薬に関する本があるのならば見てみたいな」
わざわざ閲覧禁止にしているのだから、実践すれば法に抵触するような内容なのかもしれない。その中でも特に重いのは、やはり禁じられた呪文だろうか。迂闊に口に出すのも憚られるほどに恐ろしい3つの呪文である。その中のひとつの磔の呪文は拷問にも使われたらしいから、グロテスクといえばグロテスクか。なんにせよセシルも乗り気でいてくれているようなので、覗ける時間があるといいのだが。
「露骨なフラグはむしろ折れやすいとも言う。敢えて言っておけばだいじょ──」
そんな呑気なことを口走ろうとした矢先に、不審なざわめきがシャンデリアたちから鳴る。思わず言葉を切って杖先の光をさらに上へ向けると、掴まれたセシルの手を無意識の不安から強く握り返して。
「なにかはわからん!が!あの錆びたシャンデリアの下にいるとマズイ気がする!」
ただでさえ暗いんだ、微かな光で正体を掴めるほど時間が残されている気はしなかった。ただ、シャンデリアからシャンデリアへ移動している、という情報だけで頭上の錆びたシャンデリアが落ちてくるかもしれないと咄嗟に判断すれば、焦りを滲ませた声音でその場から離れようとセシルの手を引こうとして。
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