三丁目のミケネコさん 2022-02-21 22:59:24 |
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「同居人を放るのは個人的に嫌なんだ、相部屋なんて初めてだが、複数人で過ごす以上は相手の都合も尊重するべきだろう。それに、暗くないと眠れないタチでな。具合が悪いときは遠慮なく寝かせてもらうから、気にするな」
客人をそっちのけにして己の好き勝手にするのは、マナーとして最低だ。セシルは客人ではなく同居人だが、他者と同じ空間で過ごすということに慣れてないオレには感覚的に客人と大差ない。同じ空間を共有することがもっと当たり前になればまた別、だろうが。
(それにしても、最初の友達がセントリックを知らない奴でよかったな。もしセシルがオレの家を知っていたらそもそも友達にもなれていなかったかもしれないし、オレももっと警戒していたからな。……だが、そのうち嫌でもセントリックの噂は聞くことになるだろう、新聞社がデタラメを書いたせいで父様がデスイーターという根も葉もない醜聞が出回っているんだ、マシューとかいうソバカスはともかく、デブはそこそこ良い家柄らしいから知っているだろうしな。はぁ、セシルがデマに惑わされないといいんだが)
家柄を聞いて寄ってくるものもいれば、離れていくものもいる。どちらかといえば、オレは離れられる方だろうか、組み分けの儀式でオレが呼ばれた時にざわついていた連中の数割は、オレを忌避する声だった。それについて気を張っているせいで地獄耳になっているオレだからこそ気付いたことでもあるが。…願わくば、セシルには悪い噂を知られないことを祈る。せっかく出来た友達を失う羽目にはなりたくない。
「そうか、ならこれからは落とさないようにな。何枚撮ったって、その時その瞬間を切り取った写真は一枚だけなんだから」
写真に写る彼らについてはそれ以上触れず、余程大切なものなのだと理解すれば一つ頷いて穏やかに話して。オレはセシルの家族を初めて見た──と思う。見覚えはないし、仮にあったとしてもつつかれなければ思い出せない程度の記憶だ。
「それでだが」
一度区切れば、写真ではなくセシルの顔を覗き込み。
「やっぱり、かなり具合が悪いんだろう。顔色も悪いし、さっきは手も震えていた。ああもう、あいつらに絡まれなければ、そうでなくてももっと早く撒けてればよかったな。とりあえず寝よう、明日もし熱があるようならオレが元気爆発薬でも調合するから」
どことなく挙動不審なセシルを、オレは体調が悪いのだと判断し、少し眉根を寄せる。やはり、組み分けの儀式から尾を引いていたのだと一人納得すれば、兄様のようにスマートに厄介事を切り抜けられなかった自身の不甲斐なさを内心反省しつつ、セシルに就寝を促し。魔法薬はここに来る前から何度か製作しているのでそれなりに得意分野だった、明日も容態が悪そうなら自身で魔法薬を調合するか、医務室に引き連れていこうと決めて。
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