三丁目のミケネコさん 2022-02-21 22:59:24 |
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「わかった、じゃあオレは左だな。ふぅ…ようやく荷物を置ける」
特に左右で拘りはなかったので、セシルが右を選べば快く頷き、オレは左側のベッド脇へと荷物を下ろす。丁度真ん中で分割してもそれなりに物が置けそうな程に拓けたスペースでは、カート一杯に持ち込んだ荷物も少なく思えた。そのまま教科書等の勉強道具をドサドサと出しているとセシルが天窓の下に立ったのを見て、オレも近寄り。
「綺麗だな、外で見るのもいいがこうして見上げるとまるで切り取ったみたいで、空が近くなった感じがする。月がバターで、星が砂糖、生地が窓枠に切り取られた空そのもの、パンケーキみたいだな」
ぼんやりと青白く照らされながら月を見上げるセシルに倣ってオレも天窓を覗き込めば、ホグワーツ城まで向かう道すがら見た夜空がぽっかりと映り込んでいた。あの時は果てしなく遠く感じたが、こうして見ているとまるで夜空があの小さなケーキにでもなってしまったかのようで、随分昔に食べたそれをふと連想すれば微笑んだ口から穏やかに言葉を紡ぎ。
「そうだ、時間割を見たが授業初日から飛行訓練の授業があるみたいだ。元々空を飛ぶことに興味はあったが、こうして空を見ていると、全速力で駆けてみたくなるから早く乗りこなせるようにならないとな。セシルはなんの授業に興味があるんだ?」
ベッドに出して置いたままの時間割には、魔法史やら呪文学と並んで飛行訓練の文字があった。実の所、箒に乗るのを楽しみにしていたオレは微かに弾んだ口振りで意気揚々と語り。地に足をついた人生だったが、これからは飛行という選択肢も加わる。根幹から生活様式をガラリと変えることになるだろうそれが楽しみで仕方がないと、そわそわとした雰囲気で表しながら、月から視線を外すとセシルを見て。
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