匿名さん 2022-01-26 21:20:43 |
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( 目だけを動かして、扉に貼られた簡易的な表札を見る。今日ほどこの表札を恨めしく思った日はない。なぜ借り物のマンションにわざわざ表札を貼ったりしたのか。いつかの自分を呪うも、よくよく思い返すと表札を貼った記憶もないし、極度の面倒くさがりの自分がそんなことをするとも考えられない。おおよそマンションの管理人が気を利かせたのだろう。他人の厚意を無下にはしたくはないが、この状況に限ってはありがた迷惑という他ない。表札の情報を得て確信を持ったのか、俺の返答を待たずに部屋の中へと進んでゆく後輩。その後輩に全体重を支えられている俺もまた、気は進まなくとも足は進めるしかない。ソファの前まで来ると、半分は自力で、もう半分は後輩の手を借りてクッションへと身を預ける。眼前では後輩が何か殊勝なことを言っているが、歪んだ視界では顔を見てその真偽を確かめることすら出来ず、焦点の定まらないままぼんやりとその様子を眺める。そして一拍置いた後、かろうじて頭に留めた『なんでもしたい』の言葉に、性急な頼みを一つ。しかし、身体を起こしている元気もなくぐったりと身体をソファに沈ませると、頼んだ物が届くよりも先に意識を手放してしまった )
……う、とりあえず、水……。
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