白む空に燻る紫煙　---〆

( “警察の邪魔になると思って”なんて、目の前で旦那が頭部を撃ち抜かれ亡くなって居て、辺り一面血だらけだと言うのに咄嗟にそんな冷静に警察の捜査の邪魔になる事を考え、あまつさえ畳んでクローゼットに仕舞う事など出来るだろうか。余りに冷静過ぎやしないか。とは言えそれだけで彼女を殺人犯だと決め付ける事は出来ず有力な手掛かりも得る事が出来なければ今はホテルを出るしかなく。＿＿事件が少しの動きを見せたのは車に乗り込み正に発進しようという時だった。スマートフォンが着信を知らせ画面を見ればそこには“レイクウッド署受付”の文字があり話を聞けば、ロレインが出掛けていると言っていた娘エミが署を訪れていると。「…わかりました。今直ぐ向かいますので応接室に通して下さい。」取調べ室では無く応接室を選んだのは少しでも緊張を拭えれば良いとの判断で、電話を切るや否や助手席に座る相手を見「…エミが署に来てるって。」簡潔に状況を説明してから署に向けて車を走らせて )

　






（　エミが署に来ている、其れも取り調べを担当した相手に会いに来ているという事は何かしら事件に関する情報を持っていると考えるのが普通だろう。此れで解決に向けて動き出せば良いと一縷の望みを持ちつつ相手と共に署へ戻り。---応接室で相手を待っていたエミは、部屋に入ってきた相手とエバンズとを見て軽く会釈をして。席に着き名前を名乗ってから話を促せば、彼女の第一声は『_____ごめんなさい。』という謝罪だった。『この前の証言は嘘です、父は自殺なんかじゃありません。』と続いた言葉に思わず僅かながら眉間の皺が深くなる。事件の手がかりが生まれた事は喜ばしい事だが、嘘の証言をしたというのだから。エミの供述はこうだ。____事件当日の夕方、ロレインがジェイドの好物のポテトサラダを用意していた。最近喧嘩ばかりの2人だった為、エミは不思議に思いながらも家族での団らんを楽しんだ。しかしジェイドはポテトサラダの味に異変を感じ食べなかったという。食事後、ロレインは2人に映画を見ようと誘ったが、ジェイドは部屋で読書をすると言い寝室に戻った。エミはそのままリビングで寝てしまっていたが、深夜に目覚めると誰もいなかったという。突如、寝室の方から銃声が聞こえ寝室に向かうとドアが開いており、ロレインが銃を持って立っていた、と。____『母が殺したんです、私は口止めされていて…嘘の供述をするしかなくて、』とエミは膝の上で組んだ手に落としていた視線を相手へと向けて。　）






　

( 応接室で此方の到着を待っていた彼女の第一声は謝罪だった。それは以前の取調べの際に嘘の証言をした事に対する謝罪で、更に語られていくのは彼女の母親であるロレインが今回の事件の犯人で当日の夜の詳細な出来事。母親を庇う為に口止めに従い嘘をついていたというのは娘という立場を思えば分からなくもないのだが。＿＿「では、ロレインはジェイドを殺害後寝室を出て、外側から鍵を掛け密室を偽装したという事ですか？」彼女の告白を全てまるっと信じるのは些か早い様な気がした。果たして本当にロレインの単独による犯行なのか、エミは寝室で眠っていたというが本当に今回の事件に関わっては居ないのか、慎重に調べる必要があると思ったのだ )

　






（　エミは相手の問いに対して頷くと、『そうです。寝室の鍵は簡易的な物だから私たちでも蹴破る事は出来たかもしれないけど_____隣の人に来てもらう事で、母も確実に第一発見者になれるから呼んだんだと思います。』と、ロレインが密室を偽装して隣人を呼んだ理由を述べて。ロレインの布団に関する供述の不自然さに加えて娘からの証言、彼女が犯人だという疑念は強まるばかりではあるが未だ逮捕できるまでの証拠では無い。しかし確実に殺人事件であることは明らかになったと言えよう。---話を聞いている間に少し体調が悪くなり、一瞬腕時計に視線を落とす。聞き込みは相手1人でも問題は無い為「…直ぐ戻る。」とだけ告げると一度応接室を出て。別業務の対応や電話に出ていると不審に思われる事は無い筈だと思いつつ一度部屋に戻りペットボトルを手にするとトイレへと向かい。呼吸が少し苦しく、ワイシャツの首元を緩めると薬を飲み込んで目を閉じて少しでも落ち着くようにと願いつつ。　）






　

( ジェイドは後頭部を撃たれた事で亡くなった訳だが、味に異変を感じ最初の一口以降食べなかったとすればもしかしたらポテトサラダに何らかの薬物が混入されていた可能性もある。家の中と遺体から薬物が出ないかを今一度鑑識に調べて貰う必要がありそうだと手帳の端に走り書きで記した後口を開こうとして＿＿それよりも先に相手が断りと共に席を立ち応接室を出て行けば背を追うように視線を向け。何故だろうか、これと言った明確な理由は無く言ってしまえば長い事相手の近くに居た事で備わった勘のようなものが働いたのだと思う。相手の携帯に電話が来た訳でも無ければ誰かが呼びに来た訳でも無い。御手洗だとしても相手の性格上話の最中に行く事は無い。小さな疑念の芽が発芽すればそれは根を張るように広がりあの時も…と考えてしまう。フロアにてモラレスと少しの言い合いをした日、ミネラルウォーターを片手に戻って来た相手は首元のボタンが外れている事も特別ふらついているようにも見えなかった。けれど、けれど…ペットボトルの中身は確かに少し減っていた。執務室に戻って来てから飲むのでは間に合わないくらいそんなにも喉が渇いて居たのか。疑い過ぎだ、過保護だ、と言われればそれまでだが相手の事になるとどうしても気になってしまう。平静を装いながら聞き込みを続けるも事件と向き合う刑事として如何なものか、頭の中には“もしかしたら”がグルグルと回っていて )

　






（　少しばかり体調が落ち着きワイシャツのボタンを留め直すと洗面台に突いた手で支えていた身体を真っ直ぐ立て直す。トイレを出て部屋に戻り水の入ったペットボトルを元の場所に戻してから下の階の応接室へと向かって降りて行き。---エミは相手の問いに幾つか答えた後、父の件は事件として調べて欲しいとだけ言って帰って行った。階段を降り応接室の前に着いたのはちょうどエミと相手が部屋から出て来た時で、軽く会釈を返すと相手の隣に立ち彼女を見送って。「……被害者の体内から検出された成分を見るべきだな。」と、その後ろ姿を眺めつつ離席した事には言及する事なく今後の捜査方針を相手に告げて。　）






　

( 結局相手が戻って来たのは取調べが終わりエミが帰る時だった。自殺の線は彼女の証言で０になったとは言え事件そのものが解決した訳では無く肝心の犯人逮捕も出来てはいない。エミの後ろ姿が見えなくなってから相手の方に身体ごと向き直り「鑑識には直ぐに成分表を送る様に頼みます。…捜査は進んだとは言え、ロレインが単独で起こした事件なのかエミも共犯なのか肝心な所は分からず仕舞いだね。」と小さな溜め息と共に答え。それから一拍程の間を空けて「エバンズさん」と呼び掛ける。その声色は真剣で相手を真っ直ぐに見る緑の虹彩にも同じく真剣な色が宿っている事がわかるだろう。「…調子悪い？」そう問い掛けた言葉は決して責めるような色では無く“本当の事を言って”と表には出ない、けれど確かにその気持ちが見え隠れするもので )

　





（　検死結果の成分表が届けば幾らかエミの話との整合性が取れ、真相に近付くだろう。ロレインとジェイドについても“喧嘩ばかりだった”と言っていた為、近しい人物であればその辺りの愚痴を聞いているかもしれない。それが動機を見つける糸口にもなり得る為聞き込みを強化し、ロレインとジェイド、加えてエミの周辺の人たちから話を聞く必要があると考え。フロアに戻ろうとした所で相手に名前を呼ばれると振り返る。相手の瞳は真剣で、続いた言葉に何か勘付いたのだろうと理解するも「…いや、悪くない。」とひと言答えて。ボロさえ出なければ隠し通せる、薬を飲めば耐えられるくらいの不調。其れよりも捜査に邁進する必要があった。　）







　

( 返って来た返事は“悪くない”と言う断言的なものだった。もし“大丈夫”だと言う返事だった場合は更に疑念が膨らんだであろうが暫し相手の瞳を見詰めたままややして「……わかった。」と此処は素直にも引き下がるとそれ以上質問や確認を重ねる事はせずに、スーツのポケットから取り出したスマートフォンで鑑識へと電話を掛け検死結果の成分表を送ってくれるよう頼み。＿＿ジェイドが勤めていた市役所には一度聞き込みをしたもののその中でも更に範囲を広げた聞き込みの必要性が出て来て、場合によっては離婚したロレインの前夫に話を聞く事も必要になる可能性がある。一先ずは成分表の確認をしてエミの証言の信憑性を高めるのが先かと相手と共にフロアへ戻る事として )

　






（　相手は其れ以上言及して来なかったものの、僅かながら疑念を抱き此方の様子を伺っているのは確か。捜査を続ける為には相手にも不調を隠さなければならないと考えてしまい、約束は守られず自分だけで抱え込む事を選び。しかし体調は気力だけでコントロール出来るものではなく、フロアに戻り部屋に入る直前にも目眩に襲われ足を止める事こそ無かったもののドアノブを掴む手に一瞬力が入り。---パソコンに向かい送られて来た成分表を印刷すると相手にコピー機から持って来て貰うよう頼み、デスクで異常な数値が無いかを相手と確認し始めて。　）






　

( 相手の体調に何の問題も無いとは思わないものの、過去に交わした約束がある為にまさか隠れて薬を飲んでいるとは思わなかった。だからこそ調子が悪い中でも薬を飲む程ではないのだろうと高を括っていたのだ。＿＿執務室で鑑識から送られて来た成分表に隅々まで目を通し明るみになった事実は2つ。1つ目は被害者の体内から異常数値は検出されず毒物を摂取した可能性は０であるという事。2つ目はアルコールの成分も検出されず、つまりロレインの証言は嘘であったと言う事。「…ポテトサラダの味が可笑しいと感じたのはジェイドの気の所為だったのか、そもそもその話自体がエミの作り話だったのか。…何方にせよロレインの証言とは矛盾してます。」成分表に視線を落としたまま、捜査は多少なりとも進みを見せたが結局複雑な状況には変わりなく、誰が本当の事を言っているのか慎重に見極める必要があると小さく息を吐き出して )

　






（　ポテトサラダに入っていたのが睡眠薬だったと考えれば、エミがリビングで眠ってしまったという証言に繋がる。しかし母娘共犯の可能性もある上に、今となっては数日前の薬の成分を生きた人間の身体から検出するのは不可能だ。「…ジェイドは味に異変を感じて“食べなかった”と言っていた。少し口にした位では効果は無いだろう。結果として娘だけが薬の入ったポテトサラダを食べたか…或いは元からジェイドにだけ食べさせようとしたかはわからないが、何が盛られて居たかは迷宮入りだな。」と告げて。眼鏡を外して深く溜め息を吐くと「ロレインの犯行にせよ、2人の共犯にせよ、殺害の動機が気になる。家庭内トラブルなのか、或いは保険金目当てなのか、有力な証言が欲しい。」と言って。なるべく早く解決に繋がる糸口を見つけたいと思うのは、自身の体調が良くないことを自負しているからか。　）



（　／エバンズの体調不良、今しっかり目に隠してるんだけどどんな感じでベルにバレるのが良いとかあるかな？？　）




　

( 相手の言う通り被害者が何を盛られていたとしても成分表に出ないのならば最早為す術が無いのが実際の所。娘の体内にあったかもしれない薬もまた然り。目下の数値を見詰めたまま一度頷き紡がれた言葉に顔を上げると「…もう一度市役所の聞き込みに行って来る。」と答える。有力な情報を少しでも早く入手し早急に事件解決したいのは刑事としては当然の考えながら、それとはまた別の急ぎが相手の言葉の端々に滲んでいるような気がしたのは気の所為か。市役所への同行の確認をしなかったのは広い市役所内を歩き回り聞き込みをするよりも、1人で居られる執務室に残り保険金の有無を確認する作業の方が何倍も身体に負担が掛からないと思っての事で )



（ / どうしよっかね…！もしお熱に繋げるとしたら例えば普段より動きがゆっくりだったり少し顔が赤いとかで気が付く事は出来るし、同じ執務室で事件の話をしてる時にどうしても調子悪くなって薬を飲むために部屋を出て行こうとするけど、これまでの事から勘の冴え渡ったベルによって隠れて薬飲もうとしてる事がバレるとか！ただ、熱がある事がわかった瞬間に有無を言わさず病院には連れていかれるかも！笑 ）

　





_____ああ、頼む。
（　市役所に行くと言う相手の言葉に頷き、自分も同行すると言う事はしなかった。聞き込みに出ずとも捜査が滞りなく進むのならば、今はなるべく部屋に居ることを選びたかった。相手が市役所での聞き込みを担ってくれるのなら、自分は早く保険金の有無を確認する必要があると。今はボロを出す事なく捜査を進める事が重要だという思いで、何か情報を入手出来たら再び方針を相談する事にして相手とは別々に捜査を進める事となり。　）




（　／部屋出ようとしてバレるの良い！エバンズは辛いのを表に出さず自然に退席してるつもりだけど、ベルもさすがに可笑しいって気付いて止めて、エバンズも実際結構ギリギリだから止められると隠しきれなくなっちゃって座り込んじゃうとかできそう！　）




　

( ＿＿署に残った相手は保険金の有無を、己は市役所にてどんな些細な情報でも良いから集める事を今日の捜査とし署を出て。市役所に着き受付の女性に警察手帳を見せると彼女は前回の聞き込みの時は休みで出勤していなかったジェイドの同僚兼親友の【ハインズ】を応接室へと呼んでくれた。テーブルを挟んで向かい合った彼はジェイドと本当に仲が良かったのだろう項垂れ悲痛な面持ちで『未だに信じられない…。夢であってほしい。』と唇を噛みつつも、ハーマー一家の事を尋ねると頭を上げ『ロレインの金遣いの荒さは相当なものだったらしく、ジェイドからはよく困っているんだと愚痴を聞かされていました。彼女と別れて何処か遠くに行きたいとも、』と。その他にもジェイドが事故にあった事は間違い無いが軽いもので後遺症の話は聞いた事が無い事、ロレインはジェイドの浮気を疑い悩んでいたがその事実は無い事を聞かされ、少なくとも何の問題も無い仲睦まじい夫婦では無かった事が明るみに出て。それらを手帳に記し市役所を出ればとれたての情報を引き連れて署に戻り )



（ / わー！耐えられなくなって思わず座り込んじゃうエバンズさん見たい！その流れで行こう！その後は色々を言い聞かせて、エバンズさんの気持ちもわかるから病院行ったり無理矢理休ませる方向じゃなくて無理の無い程度に捜査をするーって感じで良いかな？ )

　






（　保険会社に問い合わせた所、ジェイドには保険金が掛けられておりその受取人がロレインだという事が分かった。更におよそ750万円もの保険金は既に支払い済みだった事も判明し、かなり妻のロレインに嫌疑が掛かる状況となり。---ここ数日無理が続いた所為か今日はかなり体調が思わしくないようだった。薬が効いてくる気配が無く、時折強い眩暈に襲われるのに耐えるより他は無い。今日は部屋で出来る情報収集に努めようと思いつつ、パソコンに向かって相手が有力な証言を持って戻ってくることを願い。　）



（　／そこまで我慢しちゃうの最近なかったもんね！うん、良いと思う！あんまり辛そうだったら、捜査が一段落するまでっていう約束で点滴だけ打って貰うとかもありかな～あんな大怪我した後なんだから捜査を降りるべきだって言うアダムス医師に、逆に捜査が終わるまでの間だけ、日常生活に支障がない範囲でエバンズを楽にしてあげて欲しいってベルがお願いするとか！ベルがエバンズに味方してくれるパターン　）





　

( 擦れ違う署員からの挨拶に軽く頭を下げ応え足早に刑事課のフロアの扉を開けぐるりと頭を動かす。そこに相手の姿が無ければ次は足を執務室へと向け扉をノックするや否や入室の許可が降りるよりも先に扉を開け。「失礼します。」との挨拶を早々に相手の目前の椅子へと腰掛けると鞄を広げ中から手帳を取り出し。「ハーマー家についてジェイドの親友から有力な情報がとれました。ロレインはどうやらお金遣いが荒かったようで、愚痴も相当聞かされていたと。それからロレインがジェイドの浮気を疑っていた事、事故は確かにあったが後遺症の話は聞いた事が無い事も確認されています。…ジェイドは彼女と別れて遠くに行きたがっていたらしいですが……エバンズさんの方は？」ジェイドから聞いた情報をやや早口で読み上げ手帳を閉じては、そこで漸く相手と視線を合わせ保険金諸々の何かわかった事はあるだろうかと )


（ / だよね！久々！確かにベルがエバンズさんに味方するパターンは無かったかもだからそれにしよう！エバンズさんの体調の方は点滴の方向で！ ）

　





金遣いが荒い、か……
（　聞き込みから戻ってそのままの足で来たのだろう、ノックに応答するよりも前に扉が開かれ部屋に入るなり報告を始めた相手の言葉を聞きながら引っ掛かった言葉を繰り返す。金遣いが荒い妻、実際に保険金は既に支払われて居るのだから保険金目当ての殺人という説も十分考えられた。「____被害者には保険金が掛けられていた。受取人は妻のロレイン。金額は750万だ、既に保険会社から支払われてる。」相手に問われると調べのついた保険金に関する情報を伝えて。「妻は動機がある。エミの証言を母親に伝えて捜査を続けるべきかもしれないな、…動揺して尻尾を出すかもしれない。」と続けながらも、目眩と酸素が薄いような息苦しさを感じて小さく息を吐く。「…保険会社からの資料だ、目を通しておけ。」と言って相手に紙を渡すと、そのまま一度部屋を出るために立ち上がり。　）



（　／りょうかーい！じゃあその方向で行こう！　）




　

750万＿＿そうだね。エミが望んだ時は母親と違うホテルも手配する。
( 750万という莫大な金額が既に保険会社から支払われているとなるとますますロレインへの疑惑は膨らみ、考え得る動機と照らし合わせても最も怪しむべき容疑者として除外する事は出来ないだろう。相手の言う通り娘の証言を突き付けた時の様子を細かく観察し何の見逃しもあってはならないと頷き。と、ふいに相手の動きが一瞬止まった気がして此方の動きも止まる。続けて差し出されたのは保険会社からの資料でそれを片手で受け取るも目を通す事をしなければ、明らかに急にこの場から居なくなろうとしている様子で立ち上がった相手の腕を資料を持つ手とは反対の手で反射的に掴み「…待って、」呼び止める言葉を掛けて続く言葉がある訳では無いのだが、何故だろうか、わかってしまったのは相手の調子の悪さで )

　






（　部屋を出ようとしたものの相手に腕を掴まれ、制止する言葉が掛けられる事で其れが叶わなくなると相手に視線を向ける。呼び止めただけで相手の言葉は続く事は無かった。確認したい事があるとでも言って上手く誤魔化す事が出来れば良かったのだが、急に視線を重ねていた相手の顔がぐらりと大きく歪むのを感じて。「…っ、…」強い目眩の波に襲われバランスを保っている事が出来なくなると、僅かに表情を歪めて咄嗟にその場にしゃがみ込んでいた。目眩による吐き気と浅くなる呼吸が苦しくて、思わずネクタイを乱雑に緩める。落ち着けと自分に言い聞かせ、ゆっくりとした、其れでいてテンポが狂うのを押さえつけるような呼吸を繰り返して顔を俯かせ。　）