2021-10-27 12:27:07 |
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( 「計算が合わないんだ」と彼は言った。私に向けて言ったというよりは、独り言のような調子だった。そして、彼が大きな独り言を呟くことは、特段珍しいことでもなかった。「計算が合わないんだ」彼はもう一度言った。「君と僕が同じ世界に存在できるはずがないんだ」伏せられていた彼の目が、私を捉える。何のことだ、と私は訊かなかった。彼の言うことはいつもよく分からない。ただ、彼は何か難しいことを考えているようで、本当は何も考えていないのだということだけ分かっていた。彼は空を見る。私は彼を見ている。「僕たちは何を犠牲にしたんだろう?」遥か上空を見つめる彼の瞳が、僅かに揺らぐ。悲しげだ、と思った。それは、きっと、悲しいことでも何でもないはずなのに。彼はいつも悲しい。出会った頃からずっと、何も、変わらない。 )
私たちは、何も犠牲になんてしていない。この世界には当たり前にあなたと私がいて、他の世界にあったものがここには最初からなかっただけ。……あなたは、どうして、それを受け入れることができないの。
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