2021-10-27 12:27:07 |
通報 |
その日は土砂降りだった。
大好きな彼氏に振られた直後で、駅の階段の下に蹲って人目も憚らず泣いていた。
おまけに、それなりに酔っていた。
「 うわ、何やってんの 」
突然降ってきた声に顔を上げると、友達の彼氏がこちらを見下ろしている。
「 うるはい、どっか行って…… 」
私はそいつのことが嫌いだった。
友達をいつもいつも泣かせている、浮気症の屑だ。
「 そういうわけにもいかないでしょ、ここで置いて行ったらゆきに何言われるか分かんないし 」
面倒くさそうな溜め息が聞こえてくる。
「 ほら、住所言える? 酔っ払い 」
「 あ── 」
「 うん? 」
「 あんたに教えるわけないれしょー! 」
ばしばしとそいつを力の限り叩く。
こんなところをこんな奴に見られたくなかったし、八つ当たりもあった。
「 あーもーーー 」
一段と面倒くさそうな声が発される。しかし、そいつは避けることも止めることもしなかった。
私が疲れて叩くのを止めると、
「 気は済んだか? 」
とだけ聞いてくる。
わけもわからず涙が頬を伝って、止めようとすればするほどとめどなく溢れてくる。
「 ……女ってすぐ泣く 」
目許を撫でる親指の感覚。
同時に吐かれた最低な台詞は、台詞のわりにどこか優しかった。
そこからの記憶は無い。
そして、次に気がついた時には、私は知らない部屋にいた。
トピック検索 |