一人遊び

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   2021-10-27 12:27:07 
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今日も人生俯瞰、オーバー




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  • No.3 by 駿河 涼 / 黛 彩葉  2022-02-11 22:40:26 




庶務ちゃん知ってる? キョンシーって、お札貼られてる間は動けないんだって。
( 教室の床に腰を、壁に背を預け、昨日調べたばかりの内容をぽつりと口に出す。今日はハロウィンの仮装パーティー。係として選出された生徒が仮装して、校内の思い思いの場所に散らばっている。かく言う俺も、青地に金刺繍の古代中国の服と、【勅命陏身保命】と書かれたお札をつばのない帽子に貼り付けてキョンシーに仮装していた。「だから、ここから動けないんだよね」俺がそう続けると、彼女は意図を察したように呆れ顔になる。キョンシーの設定は、俺にとっては体のいいサボりの口実だった。お札を貼られて動けないのだから、この人気の少ない場所にある空き教室から出て来られなくても何ら不思議はない。……と、いう設定。そして、彼女の前に限っては、更にもう一つの口実として機能する。それを披露しようと口を開くと、何かを言いかけた彼女と丁度声が重なった。聞こえなかったのか、それとも聞き違いだと思ったのか、きょとんとした顔で聞き返してくる彼女に、もう一度繰り返す。「動けないから、今なら好きにしていいよ、俺のこと」今度ははっきりと届いたのだろう、彼女は分かりやすく動揺していた。純粋な瞳がゆらゆらと揺れて、彷徨い、やがて俺の元へと帰ってくる。暫しの葛藤の末、どうやら申し出を受けることにしたらしい彼女の戸惑いがちな両手が肩へと伸びて、緊張した面持ちで静かに見下ろされる。それを無抵抗のまま見上げていると、肩から右の手が浮き、恐る恐るといった様子で頭へと着地した。神妙な顔つきで、ニ、三度髪を撫でられる。何とも言えない不思議な心地でそれを受け入れていると、満足したのか、頭から手が離れ、肩からも手が遠のいてゆく。……終わりか。多少の物足りなさを感じつつも、自分の言動に心揺り動かされる彼女を見られたからだろうか、不思議と満足感はあった。一瞬の表情さえも見逃さないようにとじっと捉えていたその顔から、やっと視線を外す。気を緩めた、その瞬間。ふいに彼女の香りが近づいた。全身を包む温もりと、柔らかな感触。しかしそれはほんの一瞬で、引き留める間もなくすぐに離れてしまう。呆気に取られていると、帽子に貼り付けたお札が彼女の手によって剥がされ、その奥から真っ赤な頬が顔を覗かせた。いつもの〝降参〟の顔。これ以上は勘弁してくれ、ということなのだろう。剥がしたお札へと視線を落としながら、未だ赤みの抜けない顔で彼女が複雑そうに一言零す。それは、問い掛けと言うより、何か特定の答えを欲しがっているようだった。「んー、まあ、俺お菓子持ってないし、仮装した人が来たら他の人にもするしかないよね」俺が答えると、彼女ははっと顔を上げる。そして、やたらと大量のお菓子が入ったバスケットをこちらへと突き出した。「お、いいの?やった」あどけなく表情を緩めて見せると、彼女は先程よりも一層焦りに顔を歪め、子どもに言いつけるように釘を刺してくる。その様子にくつくつと喉を鳴らすと、口元に弧を描いたまま、建設的な提案を一つ。「そんなに心配なら彩葉もここに居ればいいじゃん」彼女は動きを止め、素直にこくりと頷くと隣に腰を下ろす。小さくまとまってそわそわとしている彼女の口から、独り言のように俺の言葉を反芻する声が聞こえてくる。どうやら普段と違う呼び方が気に掛かったらしいその声は、微かに喜色を滲ませていた。「庶務ちゃんの方が良かった?」分かりきったことを敢えて尋ねると、すぐさま否定が返ってくる。「うん、じゃあ彩葉」普段よく喋る彼女が大人しいからか、俺がそう言ったのを最後に、空き教室を穏やかな沈黙が満たした。遠くから、楽しげな生徒たちの声が聞こえている。「……ところで」凪いだ水面に小石を投げ入れるように、沈黙に接続詞を落とす。彼女がこちらを向き、俺も彼女の方を向く。まだ、今日一番肝心なことを言っていない。悪戯っ子のように口の両端を持ち上げて、呪文のように唱える )
──〝トリック・オア・トリート〟


 /


( 今日はハロウィンの仮装パーティー。仮装した生徒が校内のあちこちに散らばって、他の生徒と交流するイベントの日。生徒会が企画・立案、主催をするイベントのため、生徒会の一員である私も張り切って大量のお菓子を持参した──のだが。どうしてこの人はこうもやる気が無いのだろう。人気のない校舎隅の空き教室で見つけたキョンシー、もとい生徒会長の駿河涼先輩は、まるで動く気がないとでも言うように床と壁に身を任せていた。しまいには、それを裏付けるようにキョンシーの設定を持ち出してくる始末。この企画の実現までに彼の多大なる貢献があったのは紛れもない事実だけれど、毎度この人が生徒代表でこの学校は大丈夫なのだろうかと思わずにはいられない。「あのですね……」何かお小言の一つでも言ってやろう、と口を開くと、同時に口を開いた駿河先輩とぶつかった。「え?」一度では処理しきれなかったその内容に思わず聞き返すと、彼はより丁寧な言い回しでもう一度それを繰り返す。……やっぱり、言った。聞き違いじゃなく、〝好きにしていいよ〟って、言った。理解の後、混乱。彼の意図がまるで読めず、ただうろうろと視線を彷徨わせる。表情を窺うようにちらりと視線を戻すと、目が合う。どこか挑発的な視線に、ゆるりと余裕たっぷりに緩められた口元。……ああ、これは、完全に面白がられている。要するに、駿河先輩は動揺する私を見て楽しみたいだけなのだ。そう思うと、いつもいつも彼のペースなのが悔しくって、ならば今日くらいは一矢報いたいという気持ちになるのが自然な流れ。覚悟を決めると、彼の両肩へと手を掛ける。いつも見上げている相手に今は見上げられていることだとか、先程の台詞も相まって妙に色っぽく見える仮装だとかで、収まるどころか更に煩くなる心臓を必死で押し込めながら、常日頃触ってみたい衝動に駆られるほどさらさらとした髪へと手を伸ばす。遠慮がちに撫でてみても、駿河先輩は宣言通り無抵抗。猛獣を飼い慣らしている気分と言うか、いつもふてぶてしい彼が自分に大人しく撫でられている様がなんだか可愛らしくって、つい新たな欲が湧き上がってくる。……抱きしめたいなあ。緩やかに浮上してきたそれは、みるみるうちに膨らんで、やがて私の心の大部分を占領した。好きな人を前にして、好きにしていいなんて言われて、欲を抑えきれるほど私は我慢強くはできていないようだ。頭上から手を退け、元の距離感まで戻る間際、疼く感情に任せて彼を抱きしめる。切なさのせいか、愛しさのせいか、きゅっと心臓が締め付けられて、私には一瞬そうしているのが精一杯で。すぐに勢いよく離れると、キョンシーの動きを制限しているらしいお札を剥がす。もう充分、と言うより、ギブアップの合図だ。きっと今、自分でも分かるくらいに顔が赤い。言及されないうちに話題を逸らそうと、目を合わせないまま言葉を探す。「……これ、他の子にもするんですか」咄嗟に出てきたのは、墓穴を掘るような話題。これではまるで、他の子にはして欲しくないと言っているみたいだ。……実際、して欲しくないけれど。それを知ってか知らずか、駿河先輩の返答は軽い。「もう、もうっ、これ全部あげますから!」半ばヤケクソ気味に、大量のお菓子が入ったバスケットを突き出す。「絶対手放したらだめですからね、ちゃんとあげなきゃだめですからね!」どこまでも呑気な彼に、私の心は騒つくばかりだ。どうしてこんな人を好きになってしまったんだろう、といつも思う。しかし、彼は私のそんな心さえ、一瞬でひっくり返してしまうのだ。当然のように発せられた一言。こんな人気のない空き教室でサボろうとしている彼が、私には一緒に居ていいと、今、そう言った。「居ます……」小さく頷いて、大人しく隣に座る。駿河先輩の隣は、落ち着くようで落ち着かなくて、落ち着かないようで落ち着いた。「……彩葉」ぽつりと、噛み締めるように彼が呼んだ自分の名前を繰り返す。否応なく頬が緩む。彼が好きだと思う。揶揄うように投げられた問いには「彩葉がいいです」と即座に答え、再度呼ばれた名前にまた密かに頬を緩めた。自分でも呆れるほど単純だ。訪れた沈黙の中、ふいに響いた声に彼の方を向くと、ハロウィンのお決まりのフレーズが紡がれる。待ってましたとばかりにお菓子を差し出そうとして、はたと気付く。たった今彼に全てのお菓子を渡してしまったことに。彼の方に目を遣ると、全てを見透かしたような悪戯っぽい三日月型の瞳が、愉しげにこちらを見ていた。静かに息を呑む。一体いつから、どこまでが彼の手のひらの上だったのだろう。底の知れないわるいオバケに捕らえられた私のハロウィンは、ふたりきりの空き教室で、甘い悪戯と共に過ぎて行くのだった )


( / 久々に読み返してみたらわりとよく出来ていたので>1の手直し。 )



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