一人遊び

  一人遊び

   2021-10-27 12:27:07 
通報


今日も人生俯瞰、オーバー




コメントを投稿する

  • No.2 by 香月 純 / 橋本 環  2021-11-19 01:59:33 




……思ったよりも本格的なんだな。
( もふもふとした獣の耳と尻尾とグローブ、そして歯に直接貼り付けるタイプの付け牙を所定の位置に装着して、狼男に仮装する。今日は学校で行われるハロウィンの仮装イベント。仮装する係に選ばれた時は、学校の用意する仮装なんて大したことないと思っていたけれど、窓に映った自分は想像より様になっていた。これ、環ちゃん何て言うかな。真っ先に浮かんだのは、同じバイト先の彼女のこと。俺を褒めてくれることなんて滅多にない彼女だからこそ、どんな反応をするのかが気になる。他の子に睨まれるのが怖いから、学校では特別な用事がない限りあまり話しかけないでくれと言われているけれど、これは〝特別な用事〟に該当するはずだ。仮装にはしゃぐ生徒たちの応対をしながら、彼女の姿を探して歩く。「環ちゃん」廊下の隅で、このイベントを控えめに楽しんでいるらしい彼女を見つける。廊下からは死角になる曲がり角から声を掛けると、彼女はすぐに気が付いたようで、周囲に目を配りながら近づいてくる。この逢引きのような感じが、見つかってはいけないゲームのようで、実は少し気に入っている。当然出会い頭の褒め言葉なんてあるはずもなく、むしろ何か用かとでも言いたげな視線で彼女が見上げてくるから、俺の方から「どう?」と軽く両手を広げ、小首を傾げて見せる。彼女の一言目は、感想と言うより、ただ見たままを述べただけ。続く二言目は、意外にも褒め言葉だった。あまりにあっさりと褒められるものだから、拍子抜けしてしまう。しかし、更に続く言葉をよくよく聞いてみると、それが褒め言葉ではなく、俺に対する偏見であることが分かる。「まさか。俺は紳士な狼男だから、そんなことしないよ」いつも通りの笑顔を浮かべ、肩を竦めて見せると彼女は怪訝な顔をする。……これは、疑念の顔か、不満があるけど反論できない顔か、どっちかな。まじまじと見つめていると、居心地悪そうに視線を逸らされ、ついでに話も逸らされる。「そのつもりだったんだけど、顔見たらもっと一緒に居たくなっちゃった」他に用事が無ければ一刻も早くこの場から立ち去りたい、というニュアンスが多分に含まれたその言葉に、ストレートな好意の表現で対抗する。「まだ時間ある?」わざとらしく尋ねると、彼女は渋々といった様子で頷いた。ふと、階下から声が近づいてくる。「少し歩こうか」彼女を上階へと連れ出すと、声には同じタイミングで彼女も気付いていたようで、大人しく俺の斜め後ろをついてくる。四階まで上ると、ほとんど人の姿は見えなくなった。校内に響く賑やかな声のせいで余計に寂しさの際立つその廊下を、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。「そこ、お菓子の袋が落ちてるから気をつけて」目の先にまだ少し中身が残っているらしいハロウィンパッケージの袋を見つけて、そっと彼女の方へと手を差し出す。手が重ねられ、彼女が大股で袋を飛び越える。何か考え事でもしていたのか、そこでようやくはっとした彼女は、慌てて手を離し、ベクトルのずれた強がりを口にする。追及すればきっと更にムキになるだろうから、「はいはい」と小さな笑みと共に宥めると、彼女はまたぐっと黙り込んだ。そして、やがてぽつりと、俺への偏見を改めたようだった。今、彼女がどんな顔をしているのかが気になって、顔を覗き込もうとすると反対側に逸らされる。相変わらずの反応に、諦めて顔を元の位置まで戻そうとしたところで、聞こえてきたのは意味深にも取れる台詞。「……それは、俺がこのまま君を奪い去ってもいいってこと?」離そうとしていた顔を彼女の耳元に寄せて、軽い調子ながらも誘うように囁く。そして、そのまま否定する間も与えずやや強引に腕を引き、向かい合わせになる。こちらを向く彼女の瞳は、大きく見開かれていた。普段あまり目の合わない彼女と見つめ合うのは、少し新鮮だ。まず間違いなく、先程の彼女の言葉に俺の言ったような意味は含まれていない。けれど、今重要なのは真意ではなく、いかに上手い口実を見つけて、心を揺らして、俺の存在を意識させるか、の一点に尽きる。こちらの思惑通りに顔を真っ赤に染め、拙い否定の言葉を口にする彼女が面白くて、可愛くて。揶揄うだけのつもりで、キスをする前みたいにゆっくりと顔を近づける。一層焦った様子の彼女が、目を白黒させながら言葉を探す。さて、どう出るかな。半分は好奇心、残りの半分は侮るような気持ちで彼女の唇へと近づいてゆく。そこで、声をひっくり返しながら発された彼女の返答に、ぴたりと動きを止める。「……ふ、はは。あはははっ、そう来るか」本当に、彼女はいつも斜め上だ。これだから構うのをやめられない。ひとしきり笑った後、呼吸を整えるようにゆるく息を吐く。そして、吸うのと同時にゆっくりと目蓋を持ち上げる。そこには、不服そうな、困惑したような、でもどこかほっとした表情の彼女が居て。腕を伸ばして、その飾り気のない髪を耳に掛けると、独り言のように小さく呟いた )
──……なるほど、妬けるな。


 /


( 思ったよりもちゃんとしてる。校内中に散らばる仮装した生徒達を見て、最初に思ったことはそれだった。あまり期待していなかったハロウィンの仮装パーティー。何か一つでも絵のアイデアになるものがあれば、と思って登校したけれど、これは予想以上の収穫になりそう。不用意に近づいて声を掛けられても困るから、控えめに周囲を見回してこっそりと服飾を観察する。少し離れた場所にいる吸血鬼のディテールに目を凝らしていると、ふいに声を掛けられる。声の方を振り向くと、同級生でもありバイト仲間でもある香月純が、いつも通りのあの誘惑的な笑みを浮かべて立っていた。同級生でもありバイト仲間、なんて言い方をすると親しげに聞こえるけれど、目立たない自分と、良くも悪くも目立つ彼が親しいわけもない。バイト中に時たま絡まれる程度の仲だ。そんな彼が一体何の用だろうと、周りに人目がないことを確認しながら用心深く近寄る。じっと彼の用件を待っていると、降ってきたのは簡素な二文字。けれど、それが彼の仮装に対する感想を求められているのだということは分かる。「……狼男だ」頭のてっぺんから足のつま先までを目でたどって、ぽつりとこぼれたのは馬鹿みたいにそのままの感想。感想なんて求められる状況に不慣れで、何か間違えたかもしれない。案の定、目の前の彼も変な顔をしている。とはいえ、この他に言うべきことも見当たらない。「何て言うか、似合うね」正直に告げると、香月くんは更に変な顔をする。「それで女の子たちにガオー、って、食べちゃうぞー、ってするんだ……」容易に想像できるその光景を思い浮かべながら、至極真面目な調子で続けると、彼はようやく変な顔をやめ、否定の言葉と共に肩を竦めて見せた。こんな女の子泣かせの紳士がいるものか、という思いと、〝紳士な狼男〟という言葉の取り合わせの可笑しさに思わず眉を顰めるけれど、無遠慮な視線を注がれるとあえなく敗北。視線を逸らして退散。「それ、見せに来ただけ?」用事が済んだなら早く解放してくれ、という内心を取り繕うこともなくそのまま声に出す。大抵の相手はここまであからさまに拒絶されれば引き下がるものだけれど、何故だか彼は愉しげに口角を上げる。「……は」ぽかんと間抜けに口が開く。彼のこうした言動は初めてではなかったけれど、今日は私しかいないバイト先ではなく学校なんだから、もっと他の子を相手にすればいいのに。彼の考えていることはいつも分からない。仮装の係でもない自分に用事なんてあるはずもなく、恐らくそれを分かり切って聞いている彼の問い掛けには頷く他なかった。階下から聞こえた声から逃げるようにたどり着いた四階には、あまり人がいない。他の人に見られる心配がない安堵感と、彼と二人きりのような緊張感で、いつもとは少し違う感覚だ。こんな時に限って彼の方からも話し掛けてくることはなく、黙々と歩を進める。これは何の時間なのだろう、と落ち着かなく感じていると、目の前に手が差し出される。あまりにもさり気なく差し出されるものだから、「ああ、お菓子の……」なんて彼の言葉を繰り返しながら手を握って、そのまま主張の強いパッケージを飛び越えてしまう。着地数秒後、ようやく重なった手のひらに気がつくと、またさり気なく繋いだまま歩き出そうとする彼の手を振り解くように引っ込める。「い、今のくらい自分で避けられた!」頬がじわじわと熱を持つ。言い訳のように口に出した照れ隠しは、自然な動作に流された不覚を全て彼に押し付けるもので、可愛げの欠片もない。しかし、彼は気を悪くする風でも、傷ついた風でもなく、小さく笑う。それが妙に大人びて見えて、対照的に自分がやけに子どもっぽく思えて、押し黙る。「ありがとう。……本当に紳士なんだね」意気込むだけの間の後、それなりに勇気を出してそう伝えると、彼は何を思ったのか顔を覗き込んでくる。彼のしなやかな髪の先から甘い香りが香って、思わず反射的に顔を逸らした。「……でも」彼に後頭部を向けたまま、この静かな四階でなければ聞こえないほどの小声で続ける。「やっぱり変だよ、紳士な狼男なんて」どうしてこんなことを言ったのか、自分でも説明できない。けれど、何となく、彼には優しくされる方が切ない気がした。顔を背けている格好は、自分の顔も見られないけれど相手の顔も見えない。聞こえなかったのか、怒らせたのか、困らせたのか。何の反応もないことに一抹の不安を覚えた瞬間、ふいに耳の近くで声がして、びくりと心臓が跳ねる。何が起きたのかも分からないまま腕を引かれ、気がついた時には整った顔がやけに近くにある。形の良い桃花瞳に見つめられて、目が逸らせない。永遠で一瞬のような時間、そうして見つめ合っていると、ふいに直前の出来事が理解を伴って脳裏に浮かぶ。「……ち、ちが、」時間差で一気に顔が熱くなって、やっと声に出せたのはそれだけだった。彼はそんな私に構わず、更に顔を近づけてくる。何をしようとしているのかなんて、恋愛関係の事柄に疎い私にだってすぐに分かった。いやそんなまさか、だとか、私とでも少なくとも嫌ではないのか、だとか、やっぱり誰とでもするのかな、だとか、瞬時に駆け巡る言葉たちを押しのけて、口をついたのは屁理屈みたいな逃げ。「い、今のは、香月くんじゃなくて狼男に言ったっ……」香月くんの動きがぴたりと止まって、私も息を殺しながら彼の動向に注目する。すると、彼は何故か突然笑い出す。最初は目を丸くしてその様子を見ていたけれど、いつまでも笑い続ける彼に、そんなに笑われるほどのことは言ってないのに、と少し居心地の悪い気持ちになる。けれど、その表情に、いつも仮面をつけているような彼の素顔を見た気もして、怒る気にはなれなかった。目の縁にうっすらと浮かんだ涙を掬い取りながら、彼はやっと笑うのをやめる。そして、そのまま軽く曲げた人差し指で私の髪に触れた。無意識に身体が強張るけれど、その顔に見たこともないような優しい顔が浮かんでいるのに気が付いて、私は彼のことがもっと分からなくなる。彼は小さく何か呟いた後、波のように引いて行く。何事も無かったかのように歩き出すその横に並んで、ちらりと横顔を盗み見ると、すぐに気付かれて、どうしたの、とでも言いたげな瞳を向けられる。その顔にはもう、いつも通りの誘惑的な笑みが浮かんでいた。その仮面の向こうに触れたい。そう思わせるのも彼の巧妙な演出なのだろうか。あぶないオバケの前では、どうしたって無関心ではいられない。厄介だな、としみじみ思いながら、せめて今日だけは見つかってしまわないようにと、私も取り澄ました顔を貼り付けた )


( / 香月と絵描くタイプの陰キャオタクちゃんのハロウィン。可愛くなくて可愛いがテーマ。この絶妙な距離感が似合うふたり。 )



[PR]リアルタイムでチャットするなら老舗で安心チャットのチャベリ!
ニックネーム: 又は匿名を選択:

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字 下げ
利用規約 掲示板マナー
※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※必ず利用規約を熟読し、同意した上でご投稿ください
※顔文字など、全角の漢字・ひらがな・カタカナ含まない文章は投稿できません。
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください

[お勧め]初心者さん向けトピック  [ヒント]友達の作り方  [募集]セイチャットを広めよう

他のトピックを探す:個人用・練習用







トピック検索


【 トピックの作成はこちらから 】

カテゴリ


トピック名


ニックネーム

(ニックネームはリストから選択もできます: )

トピック本文

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字

※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください
利用規約   掲示板マナー





管理人室


キーワードでトピックを探す
初心者 / 小学生 / 中学生 / 高校生 / 部活 / 音楽 / 恋愛 / 小説 / しりとり / 旧セイチャット・旧セイクラブ

「これらのキーワードで検索した結果に、自分が新しく作ったトピックを表示したい」というご要望がありましたら、管理人まで、自分のトピック名と表示させたいキーワード名をご連絡ください。

最近見たトピック