XXX 2021-01-31 22:50:25 |
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>28 夏目 白
名前なんて上等なもの、此処じゃアンタ以外誰も持ってやしないわよ。ただ皆が皆"誰かさん"じゃ不便だから、適当に見繕った呼び方でやり過ごしてるだけ。アタシは"バジリスク"、そう呼ばれてるわ。(後方から聞こえる声には今だ消えない死への願いが滲んでいたが、それは何ら不思議なことではない。何しろ此処へ招かれる直前まで死というひとつの救済に強く強く焦がれていたのだから。そんな哀しい心の前に諭すなどという生易しい術では最早何の効力ももたないということを知っているからこそ、敢えて投げ掛けられる問いに淡々と答える。辛辣な言葉ならばいくらでも湧いて出てくるくせに、気楽な語らいは不得手の口。黙って突き進むその前方へと視線を遣れば、ふよふよと宙を漂い先導する一本の蝋燭の灯りが行く先を照らしている。灯りと呼ぶにはあまりに頼りないそれが導く先は、これから先彼女が寝泊まりをすることになる専用の一室である。「…言っとくけど、アンタが思ってるほど気楽じゃないわ。」俄かにひとりの時間、ひとりの暮らしへの期待を覗かせる彼女へ向け、妙に実感のこもった声で漏らした言葉は何処かぼやきにも似ていて、丁度辿り着いた目的地で立ち止まる頃には今日この日、案内役を任された不運を差し引いてもまだ晴れぬほどの物憂げな顔をしていたに違いない。一見すると何の変哲も無い質素な扉、金色のドアノブを捻って開くとギギギ…と古い木の軋む音がする。「アンタの部屋よ、入りな。」素っ気無く声を掛けつつ、自身はと言うと更に少し廊下の奥へ進むことで彼女に道を空けてやり)
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