語り部さん 2020-12-17 23:27:56 |
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(通話開始してから1分5秒、やっと誰かが参加してきた。
『あの・・』と始まる少女、いや、少年の声。変声期前の独特の幼なさを秘めたその少年声は、一体、誰のものなのか戸惑った。「もしもしーー、ナイン?……だな」しかし、年不相応にムリやり取っ付けたような丁寧な口調に、9の文字がすぐ頭に浮かんだ)
伝えることがあったんだ。
なんだっけな、そのーー
(お酒のせいなのか、
それとも、クスリのせいなのか、
はたまた、いつものコミュ障のせいなのか。
自分が何を伝え、謝るべきだったか、どんどん数秒前の感情が忘却の彼方へと消えていく。「そのぉーーー……」と言いながら時間稼ぎ。やがて訪れる沈黙の中で呆然と考えた。向こうで、ホームレスがDQNに蹴られるのを眺めながら。
IX。中二心がうずく名前。将来期待できる顔立ち。成績優秀者で人生の勝ち組。闇深いお偉いさんたちの奉仕者で、困っている人や助けを求めてる人は助けるという、模範的な優しさ、模範的な正義感も持ち合わせ、まるで学校の道徳教科書に出てきそうな不気味な少年。オレの偏見だと、今は充実してるが、あと4年もしたら自分のリスカ痕を病み垢界隈にツイートしそうな感じだ。
そういえば、コイツとは何回か仕事をしたことがある。でも絡まなかった。なんでだろ?ーーあ、そっか)
そうだ、
(向こうで、フードを被るDQNが、足元で許しを乞うホームレスを蹴り飛ばした)
おれ、おまえのこと、ずっと、
(サングラスのDQNは、回転式ナイフを取り出し、それをホームレスの前で見せる)
ずっとさぁ!
(怯えるホームレスの頭を踏みつけるDQN、そしてしゃがみこんで、刃をホームレスの目へ近づけるDQN。それをここで傍観する五月の青年)
キライだったんだ。
『ギャァアァアァアァアァ!!!
やめてぇぇぇよぉぉぉ!!』
(ホームレスの異常な叫び声が通話内にも入った。襲われているのは誰が聞いても分かる。だがオレは何もしない。今は、ナインに気持ちを伝えたかったからだ。この怒りと嫉妬をぶつけずにはいられなかったからだ)
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