加賀 2020-12-13 03:01:30 |
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おおきに、縁。少し長くなるけど堪忍したって。( 緊張して口が渇く、自分の心の中の一番柔らかい部分をこれから貴方に晒す。あの夜は酷く恐ろしい事のように思えたのに、ぎゅう、と背中に腕を回し、ぴったりと触れ合う今は不思議と怖くなかった。心から噛み締めるように礼を述べると、静かに話しはじめ )俺の家は代々学者とか、教師とか、医者とかそんなんばっかおって、勉強できないアホは柳家の人間やないて言われ続けてきた。オトンが大学教授で、オカンが高校教師やってん。褒められるんも認められるんも、成績が全てやったし、勉強するん強制されとったから、物心ついてからは勉強してた記憶しか無い、英語に出会ったんも物心つく前やし。中高は部活もさせて貰えへん、学校終わっても家で勉強、テストで一点でも落としたらアカンし、成績もずっと一番をキープしな、アカン。偶にポカすると、オトンもオカンも気ぃ狂ったみたいに怒鳴り散らして、家から追い出されんのや、それがほんまにおっかなくて。二人の期待にも応えられへん、勉強できひん自分にどうにも価値を抱けなくなってもうて…そのうち机に向かってへんと不安で落ち着かんくなるようになってた。結局なんもかんも窮屈で、大学合格してから親に口答えして大喧嘩して、家出してん。こんな良い歳した大人んなっても、不安になると勉強に走るんはどうしても治らんくて……せやから、仕事でミスしてもうたり、焦ったり、不安になると、今日みたくなってまう。仕事には行かなあかんって体が分かっとるから、行くんやけど…何日か眠らんと体に限界が来るまでずっとそうなってしもて、未だに自分でコントロールもできへんのや。( 世間体を気にする両親と仲の良いふりをするのもすっかり得意になった、仕事は問題無くこなすが、その行き帰りの道中は全く周囲が見えなくなる、新たな語学書を見境無く購入してしまう。ぽつりぽつりと、重たくなりすぎないように言葉を選びながらゆっくりと悪癖の全てを話し進めてゆくと、最後には自嘲的な笑みを浮かべ )…苦しめるんと逆でな、縁と一緒におるようになってから、めっちゃ救われてんねん。最近はお前がずっと笑かして、近くにおってくれるから、嫌な事も不安な事も忘れられて、暫くあのアホみたいな発作もなかったんや。けど、もし一緒に暮らして、またやらかしてもうて、おまえに今日みたいに迷惑掛けることになったら。…俺のせいで縁が嫌な思いしたり、損したり、そういうんは許せへん。足、引っ張りたない。…だから、…ッ、( 少しだけ体を離し、貴方を見つめると柔らかく微笑みながら続けるも、段々と葛藤するような苦々しげなそれに変わり。本当は貴方といたい、離れられる気も離す気もない、生活を共にできたらどんなに幸せだろうかと考えると、" 諦めてくれ "の言葉が喉につかえて出てこない。鼻の奥がつんとしてしまい貴方の肩口にぐり、と額を押し付けると、幾度も幾度も思い描いては消そうとしていた本心が、僅かに震えた囁くような声と共に呆気なく転がり出て。祈るように、どこか不安そうに、縋るように愛しい体に擦り寄り )……ほんまは、俺も縁とずっといっしょに居りたい。おまえと、おんなじ家に帰れたらどんなにええかって、ずっと考えてた。情けないとこも山程見せるかもしれへん。それでも…───まだ、いっしょに住むん…諦めないでいてくれるか?
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